2018年07月24日

まおくん、走る!

まおくん、走る!
           
 まおくんは、みこたんのそばでニャーニャー鳴いていました。まおくんの目の前で、自転車が逃げ去って行きました。道路でみこたんは、血を流して倒れていました。まおくんは、みこたんの足をなめました。
「痛いよう、痛いよう」
 足を抱えながらみこたんが泣きました。
「お医者さまを呼んでくる」
 まおくんは、まるでチーターのように駆け出しました。カラスがかあかあ鳴いていました。
 しばらくして病院が見つかりました。まおくんは扉をたたきました。けれど、病院の人は、まおくんを見ると、
「きゃー、猫だわ!」
 と悲鳴を上げてしまいました。
「みこたんが、けがをしたんです」
 まおくんは大声で言いました。しかし、だれもとりあってくれません。
 まおくんは、ふと、近所のおばあちゃんのことを思い出しました。まおくんはおばあちゃんのところへ行きました。けれどおばあちゃんも、まおくんの言葉がわからないのでした。
「ぼくが人間だったら、きっともっと役に立てるはずなのに」
 まおくんは、おばあちゃんの着ている服をくわえました。そしてワンワンほえかかってくる犬や、ものすごいスピードで走る車にもめげず、まおくんはおばあちゃんをみこたんのところへ連れて行きました。
「た、たいへんだわ、血が出てる」
 おばあちゃんは、すぐケータイで救急車を呼びました。みこたんは病院に担ぎ込まれました。まおくんは面会できません。
 おばあちゃんは、ニャーニャー鳴いているまおくんをなでながら、
「昔話に、猫がお伊勢参りしたら人間になったっていうのがあるんだよ」
 と、言うと、まおくんの首に財布を巻いて、
「お伊勢さんへ行っておいで」
 と言って送り出しました。
 途中、いじめっ子に追いかけ回されたり、交通事故にあいそうになったりしましたが、それでもやっと一週間後、お伊勢さんについて、まおくんは「人間にしてください」とお祈りしました。
 するとどうでしょう。まおくんは、かっこいい少年に変身していました。
 まおくんは、おばあちゃんからもらったお金で宿をとり、病院にまっすぐ行くと、みこたんに会いに行きました。
その頃には怪我が治っていたみこたんは、弟ができたと喜んで、まおくんの手を握りしめた。まおくんとキャーキャーはしゃいでいると、お父さんはお母さんに言いました。
「こんな不思議なことが起きるのは、お伊勢さんのおかげかな?」
 お母さんは答えました。
「そうですわ、だってこの子も含めて二度目ですものね」

posted by アスリア at 13:14| Comment(0) | 創作エッセイファンタジー

2018年07月10日

天国の郵送便

天国の郵送便

ここあは、パパが大好きでした。でもパパは病気で死んでしまったのです。今は二十三世紀、ママは、インターネットで、あの世へ行った人の生活をDVDで送ってくれる店を見つけました。ここあは、パパがあの世からどんなお話をしてくれるのか、大変たのしみにして待っていました。
「ねえママ、天国ってどんなところなのかな。パパはそこで、どんな暮らしをしてるのかな」
ママは、ニコニコ笑いながら、
「きっと幸せに過ごしてるわよ。大好きなゲームをしてるかもね」
注文を思い出しながら、ママはここあにかがみこんで言いました。
「DVDはほんとうに高かったから、送料が安くすむこだま便にしたのよ。でも、こだま便はひかり便より、配達されるまでに時間がかかるんですって」
ここあは、気にしませんでした。パパの暮らしぶりがわかるなら、それでもいいとおもったからです。
「ママ、わたしのお誕生日までには、DVDが来るんでしょう?」
ここあは、ママの首に抱きつきました。
ママは、洗濯ものをロボットに片付けさせながら、
「きっとお誕生日までには来るわよ」
と言って微笑みました。
ところが、一日たち、二日たち、一週間たってもこだま便は配達されません。店に問い合わせても、
「ただいま注文が殺到しています、もうしばらくお待ちください」
という返事がかえってくるばかりです。
ここあはとても心配になってきました。こだま便は、どうなってしまったのでしょうか。道の途中で、事故にあってしまったのでしょうか。もしかして、パパはほんとうは地獄に落ちてしまって、わたしにはみせられないからママが注文を取り消しちゃったのかも知れない。
いろいろな想像が頭の中を駆けめぐります。
ママの使っているスマホもパソコンも、ここあには使えないので、ここあはおもちゃのスマホを使って、スマホごっこをして遊ぶことにしました。
「もしもし、天国の郵送屋さん。パパからのDVDは、どうなりましたか?」
「ここあは悪い子だから、DVDは送られてきません」
そんな会話を聞いていたママは、おもちゃのスマホを取り上げてしまいました。
ここあは涙を浮かべて、ママを見上げました。
「天国からのDVDなんて、うそっこだったのかな。ほんとうはそんなのなくて、ドラマとかでごまかしてるのかな」
ママはすっかり弱ってしまいました。
「ママも、わからないのよ。ただ、ママのお友だちは、みんな、ほんものだって言ってるから、信用しちゃったの。いまは二十三世紀でしょう? あの世にだって通信できるんだよって言われたの」
「ママってお人好しなんだね」
「こらっ!」

それから数ヶ月、なにごとも起きませんでした。ママはすっかりだまされたのだとあきらめていましたが、ここあは郵便ポストを見に行って、店からDVDが配達されているのではとのぞき込むのです。
そんなクリスマスの日、ここあはマンションの自分の部屋で、勉強していました。お友だちといっしょにクリスマスパーティーをするまえに、ちゃんと勉強をしなさい、とママが言ったからです。すると、窓がコツコツ叩かれました。見ると、窓の外に、トナカイに引かせたそりにのった、赤い服のおじいさんが、ほっほっほと笑っているではありませんか!
驚いて窓から身をはなすと、おじいさんは、
「すまんすまん、道草をしてしまった。こだま便だけに、ひかりより遅いんだよ」
と言って、DVDとリボンの付いた箱を差し出しました。
「この箱は、いい子だったここあへの、パパからのプレゼントだよ」
ここあは、用心深く窓を開け、二つのプレゼントを受け取りました。
「さらばじゃ!」
おじいさんは、空を飛んで行ってしまいました。ここあはぽかんと見送りました。
箱を開けてみると、キラキラ光る虹のようなカードに、きぼうと書かれた猫が入っていました。
ここあは、そのきぼうを取り出して、DVDをみるために、ママのところへ駆けだしていきました。

posted by アスリア at 09:20| Comment(0) | 創作

2018年07月04日

彼岸カクテル

うちのじいちゃんがばあちゃんのお通夜の時にカクテルを飲んだのはなぜか、知ってるかい?
死んだ人を悼んで飲んだのだろうって?

それもある。

だけどもう一つ、訳があるんだ。妻のおまえにだけ、話してやろう。

じいちゃんは、そりゃあ豪快な人間だった。カクテルなんて柄じゃない、むしろ焼酎やウォッカなんかが似合っていた。

「カクテルなんて、女の飲むものだ」

イマドキの女性が聞いたら、きっと腹を立てるようなことを、平気で言ってたな。

それが、あるとき、息子の俺を呼び寄せて、真剣な顔でこう言ったのさ。

「おまえ、彼岸カクテルって知ってるか?」

初耳だったから、きょとんとなったね。するとじいちゃんは、話したのを後悔したようで、

「いや、いい。何でもない」

そんなふうに言われたら、逆に気になるじゃないか。俺は、じいちゃんに、

「彼岸カクテルってなんだ?」

と何度も訊ねたが、じいちゃんはムスッとして答えてくれなかった。

それから、じいちゃんはなにやらコソコソと、夜になると家を出るようになった。

「トシだし、徘徊が気になるわ」

おまえの言うのももっともだ。俺はじいちゃんのあとをつけることにした。

じいちゃんの向かった先は、うらさびれた一郭で、そこに傾きかけたバーがあった。俺が様子を覗っていると、じいちゃんはまっしぐらにそこへ向かって歩いて行く。

がちゃり、と扉が開くと、ジャズの音とともにじいちゃんがそのバーに入っていった。俺はちょっとためらったが、そっとバーの扉を開けて様子を見た。

じいちゃんが、止まり木にとまってバーテンダーに注文している。

「彼岸カクテルの四捨五入をくれ」

「あいよ」

四捨五入? 変わった名前のカクテルだ。俺はそっと中に入り込んだ。じいちゃんはまるで気づいていない。バーテンダーのカクテルを作る手つきを、異様なまでの熱心さで眺めている。

「はい、できましたよ」

バーテンダーは、こんな寂れたバーにはふさわしくないほどしゃれたグラスに、その緑色の液体を注ぎ込んだ。

「ぐびぐびぐび」

じいちゃんは、味わうという言葉など知らないかのように、一気にその液体を飲み干した。

するとどうだろう。

止まり木の向こうに、死んだはずのばあちゃんがふわっと現れたじゃないか!

「わっ!」

俺は思わず、腰をぬかした。

じいちゃんが、振り返る。

「見たな?」

じいちゃんは、ニタリと笑った。

「おまえも、四捨五入の仲間入りをせにゃ、ならんな」

「じいちゃん、ゆ、幽霊!」

俺が指を指すと、じいちゃんはカクテルのおかわりを注文し、

「これは彼岸の向こうへ行った人間を呼び出す彼岸カクテルなんだ。四捨五入というのは、死者後柔ということで、死んだ人が後になって思い残すことのないように、一時的に会話できるんだ。そんなにこわがるな」

よく見ると、ばあちゃんは優しく微笑んでいる。俺は少し、ほっとした。

それからだ。俺もじいちゃんといっしょに、彼岸カクテルを飲むことになった。

飲むたびに、違う人が現れた。

あるときは、男にフラれて自殺した女。

あるときは、交通事故で死んだ少年。

みんな、この世に心残りがあったんだ。

俺は、みんなに約束した。

未練を、必ず断ち切ってやるってな。

だからほら。

俺のところには、遺産がガッポリ入ったろ。

死者がお礼に、遺産を分けてくれたのさ。

バーはどこかって?

さあな。じいちゃんが死んでから、どこかに移転しちまったようだ。

おい、なんだそのナイフは。

やめろ、俺は彼岸カクテルのレシピを知らないんだぞ。

posted by アスリア at 06:53| Comment(0) | エッセイ