2018年01月28日

魔法世界のリフジーズ (終)

おれは香澄を連れて、大学病院を脱出することにした。だが、もちろん警備員が出入口に控えている。ただでは出してくれないだろう。
おれが考え込んでいると、内面のなにものかがクツクツ笑いながら、
―――忘れてないか? おまえは、稲妻を自由に扱えるのだ。
と、ささやいた。
稲妻を、自由に扱える?
おれは自分の両手を見つめた。セマミラーを使用不能にしてしまったこの手。自由に扱えるのなら、なぜ、あのときコントロールがきかなかったのか?
―――われのことを、認めていなかったであろう。そなたがサンダートールであることを知らされたからこそ、われはそなたに力を預ける気になったのだ。
内面の声は、考え深げに言った。
―――ほんとうなら、香澄に力を預けるつもりだった。香澄は、われの心情をよく知っておるゆえ。
じゃ、なんでおれなんだ?
―――雷神封じのお札がはがれたとき、おまえがそこにいたからだ。われとしては、不本意な結果であった。
香澄のところへ行けよ。
―――ひとたびサンダートールを選んだなら、その人物が死ぬまで乗っ取らねばならない。ということは、次なるサンダートールになりたい人間が、そなたの命を狙うという意味でもあるのだ。
とんでもない状況になった。おれは、胃ががたんと落ち込むような気分になった。命を狙われる? おれが? 雷を自由に扱えるだけで?
―――なにを愕然としているのだ。おまえは、生きている兵器だぞ。稲妻を発することで、セマミラーたちは焼失し、文明の利器は使えなくなる。その力を欲するモノは、いくらでもいるはずだ。
内心の声が、いぶかしそうに言っている。
おれは、あたりをみまわした。あの、古里という人物は、親切心で治療を申し出たわけではなく、実験材料として見ている。解剖されるというのは、当たっているのかもしれない。
だが、あらためて内心の声と現実を見比べてみた。
香澄をサンダートールとして選びたかった、と内心の声は言っている。それがほんとうなら、なぜ香澄は、サンダートールのことをおれに隠していたんだろう? 雷神に取り憑かれるなんて、マジいやなことでしかない。降ってわいた災難を救おうとして、香澄はここまでついてきてくれたのだ。
「なにぼーっとしてるの? ここから早く脱出しましょう」
香澄は、つけつけと指示してきた。こんなにも高圧的でなければ、すなおに言うことを聞いたかもしれないが、おれはムカッときてしまった。
「さっき、おれがサンダートールから抜け出す方法を知っている人を、ひとり知っているって言ったな? だれなんだ? そいつ、危険じゃないだろうな?」
おれがまた気絶したら、おまえのせいだと香澄に言おうとした。
香澄は少し青ざめている。
「ともかく、ここにいちゃダメよ。あなたを解剖して、サンダートールの神髄を見極めようと実験するひとたちなんだから」
「なんでそれを知ってる。おまえ、なにものなんだ」
おれは香澄の青ざめた顔をにらみつけた。香澄は口に手を当てて、あきらめたような表情を浮かべた。
「サンダートールは、一種の依り代よ。わたしは依り代になるために育てられたようなものだわ。あなたが脇からしゃしゃり出てこなければ、わたしがサンダートールになれたはずなのよ」「余計なお節介焼きで悪かったな」
「ともかく、口論している暇はないのよ。はやくここを脱出しましょう」
「警備員がにらんでるぜ」
「稲妻で気絶させちゃいなさい」
「―――おまえ、過激だなぁ」

ともあれ、おれは、出入口でにらんでいる警備員に指を突っ立てた。警備員は青くなって身構える。
「ここを出してくれたら、危害は加えない」
おれが言うと、内心の声が、
―――甘いな。通報される前に、倒してしまえ。
とささやいた。
おれはそれを無視して、出入口に近づいていく。
すると、出入口に出張っていた警備員は、すっとどいてくれた。
どういうことなのだろう?
出入口に立ったとたん、その答えがわかった。
電極が戸口に仕掛けられていて、おれの身体じゅうに電流が流れてきたのである。
おれは体力を限界まで吸い取られ、倒れてしまった。
そして、となりの香澄は、その電流を浴びて目の色が金色に輝いているのである。
「わたしはサンダートール」
香澄は宣言した。
「この国の最終兵器として、戦うのよ!」
「ダメだ」
おれは、必死で立ち上がろうとした。香澄は、手のひらで稲妻をもてあそんでいる。
「最終兵器なんかに、なるんじゃない」
おれはそういうと、立ち上がって香澄の唇に自分の唇を重ね合わせた。

―――うげっ! キショイ!

声にならない声が叫ぶと、電流は香澄をすり抜けて、部屋のなかを駆け巡った。
そして、そのまま屋上の方に向けて消えていく。
ばしん。
おれは、ほほを張られた。
「いつまでやってるのよ! ばか!」
香澄は顔を真っ赤にして叫んだ。

大学の教授がやってきた。
「雷神封じが、うまくいかなかったな」
教授は、残念そうに言った。
「雷を自由に操れたなら、核兵器のボタンも無効化できるのに」
「ひとを兵器にするなんて、人道的とは言えませんね」
おれは言ってやった。
「雷神を操れるのは、サンダートールだけだ」
教授は、重々しく言った。
「今後は、人工知能でサンダートールを作ってみよう」
「―――懲りないヤツ」
おれはあきれてしまっていた。

こうしておれは、ふたたび公民館で、年寄り相手に教えている。
リフジーズに一度なった経験がものを言い、生徒たちのウケはいい。
だが、時々、あの内心の声を思い出すのだ。
あれはほんとうに雷神の声だったのだろうか。
あるいは、人間の生み出した、科学技術への不安が形になったのだろうかと。
そんな疑問を抱えながら、おれは今日もボランティアを続けている。

posted by アスリア at 18:40| Comment(0) | 創作エッセイファンタジー

2017年12月23日

魔法世界のリフジーズ 02 変化03

「わたしも一緒に行くわよ」
香澄は、厚かましい口調でしゃなりと言った。

古里は、ゴム張りの車におれを乗せると、
「サンダートールは貴重ですからね」
と言って、ひたすら郊外へと走り続ける。枯れた葉が落ちた街路樹と、いまだ暗い空をながめながら、おれは先行きを考えて暗くなった。おれには頼れる親戚などいない。香澄はアテにできるわけがない。内面にみょうなことをささやく狂気を抱えて、おれはどうなってしまうのか。

着いたところは、見たところ大学病院のようだった。もちろんそうだろう。おそらく精神科へ連れて行かれるに違いない。わたしもついていくといきり立つ香澄をくっつけて、古里は中へ入っていく。
そのまま事務室みたいなところへ連れて行かれ、ゴム製の魔法人形に簡単な質問をされてから、おれは医師に面接した。
「あなたには、特別な処置がなされます」
医師はそう言うと、黒いめがねをずりあげた。
「観察部屋で様子を見ながら、投薬を受けてください」
「おいおい、おれは動物園の珍獣か?」
おれは文句をいうと、辺りを見回した。出入口は、しっかりと警備員が立っている。逃げる隙はなさそうだ。
「安心なさい、研究結果は世界平和のために使われますから」
医師は、無表情な目で告げる。世界平和について、なにか言いたいことがあるようだが、がまんしているという印象である。
「あなたも、帯電していては、精密機械(セマミラー)が使えないでしょう? それに食べ物を冷やす暗零庫や瞬間料理魔導機などが使えないとなったら、料理ができない」
「外食しますよ」
「店の精密機械(セマミラー)が破壊されますよ。サンダートールは、雷の神の使いでもあります。この世界の精密機械のすべてを壊しかねない」
「―――サンダートールは、なぜそんなことをするんだ? おれはそんなつもりはないぞ」
「雷の神は、この世界の精密機械を敵視していますからね。あなたは生きている爆弾です。保護する必要があります」
「保護してもらう必要なんかない」
なにやら、陰険な目で見つめてくる目つきが気に入らない。おれは反発した。
「そもそも、サンダートールになりたくてなったわけじゃない」
「だいじょうぶですってば。なんとか雷の神をなだめて、天に帰ってもらいますから」
アテになるのか?
「宮崎さん、ほかに方法はありませんよ」
医師は冷淡な口調だった。ひとを実験材料とみている目つき。
「あの、宮崎さんと話したいんですけど」
香澄がそう言う。医師はそこを離れた。
「―――いい話じゃないの。なんでぐずぐず言ってるの」
香澄はすっかり信じているようだ。
「ひとを珍獣扱いするのが気にくわねーんだよ。それに、あいつらの言うことがすべて信じられるとも思えない」
「なんでそう思うわけ?」
「もし、信じられるなら、出入口にあんな警備員を置くものか」
香澄は、そちらのほうをチラ見した。
「そりゃまあ、一理あるけど」
「おれのなかに雷神がいるなんて荒唐無稽な話、信じられるもんか」
おれは吐き捨てた。
「でも、狐憑きはわりとみかけるわよ」
香澄はじろじろおれを見つめた。
「どちらかというとあなた、雷の神より狐のほうが似合ってるわ」
「うるさい」
  おれは身を縮めた。「ともかく、ここを脱出する。サンダートールがなんなのか、ここにいてわかるとも思えないし、なぜ雷の神がおれに取り憑いたのかもわかるはずがない」
「どこかわかるアテでもあるの?」
香澄はキラッと目を光らせた。冒険するのが好きなタイプらしい。
「ひとり、心当たりがある」

posted by アスリア at 20:08| Comment(0) | 創作エッセイファンタジー

2017年11月16日

魔法世界のリフジーズ 02 変化 02

やってきたのは、男だった。大きなプロレスラーみたいな体つきをしていて、秋も深いのに上半身はハダカである。おそらく魔転送部屋を使ってやってきたのだろう。見たこともない、いかにも悪役レスラー風、というか、人食い鬼のようないかつい顔をしている。

「サンダートールの保有者は、だれだ」

いきなり、男が口を開いた。じろりとあたりをみまわし、その保有者を見つけ次第、とってくってやるという態度である。

東野は、たちまち活気づいた。

「沖縄のお菓子かいね? ここは広島の公民館じゃけ、沖縄とは関係ないんじゃ」

「サーターアンダーギーじゃないっ!」

男はつばを飛ばして否定した。

「ここらに、雷が落ちてきただろう。その雷の保有者を探しておるのだ」

東野と香澄は、顔を見合わせた。雷を保有する? そんなことができるのか?

おれは、二人の顔にそう書いてあるのを、はっきり読むことができた。

―――まずい。つかまったら、解剖されるぞ。

こころのなかの何かがつぶやいた。

解剖? それは困る。

おれとそいつの意見が一致した。

おれが男の隙をうかがっていると、男は東野にけんけん叱られていた。

「なに荒唐無稽なことを言っとるんよ! 雷を保有なんて、できんじゃろう? そもそも、あんたはなにものなのよ? まるで影のように現れるなんて、賢士のひとりじゃないわね? さっさと正体をあかしんさい」

男は、恐れ入ったようすもなく、まだちょっと怒っているふうで、

「俺は政府の役人だ。落雷の被害者を保護するのが仕事なんだ」

「保護、というより連行では」

香澄は、冷淡な目で「政府の役人」を名乗る不審人物を見つめている。

「疑うなら、身分証を見たまえ」

差し出したパスポート型の黒い手帳には、「国家安全保障局」と書かれている。名前は、古里(こり) 孝夫。

「警察じゃないんだったら、逮捕権はないだろ。おれは行かない」

おれはくるりと背を向けた。

「いいのかね? この事態は、きみの手に余るだろう。ボランティアで教えていたきみが、リフジーズになってしまったら、やることがなくなってしまうのではないのかね」

古里は、試すように笑っている。

「落雷の衝撃で記憶を失った被害者はおおい。それなのに、どうやってセマミラーをあやつる仕事に就くのかね? セマミラーは、そんなに甘いものじゃないぞ」

信じていいのだろうか?

おれのこころは揺れた。彼が政府の役人であるということを疑う材料は、どこにもない。ただ、「国家安全保障局」というところが、不安なだけだ。マスコミでは、あまりいい噂を流さない。無実の人間を投獄したとか、魔法使いを抑圧したとか。まあ、すべて過去のことではあるのだが。

―――こいつを信じるな! サンダートールになった人間がどうなったのか、報道されていないだろ。

こころのなかの何かがささやいている。

どうするべきか。一緒に行けば、このうるさくてやっかいな「なにか」が、処理されるのだろうか。

あるいは、もっとひどいことになるのだろうか。

「な、俺と一緒に行こう? 行けばよけいな考えはすべて消え失せて、元の自分以上のものになれるんだぜ?」

古里は、誘惑するような言い方をしていた。

元の自分以上のものになる。

それは、魅力的かもしれない。

サンダートールが何者なのかはわからないが、現状、自分は以前より劣っている。

―――いまの自分が、元の自分以上だとは思わないのか? その気になれば、電撃でイチコロだぞ。

「なにか」はささやき続けている。

おれは、まともに古里を見つめた。
古里は、平然と見返した。
おれは周囲をあてもなく見回した。

東野は、心配そうにおれを見つめていた。

彼女は、リフジーズだ。

おれも、雷撃により、リフジーズになってしまった。

雷撃がなくなれば、すべて片付くのだろうか。

―――ほんとうに、古里は信じられるのか。

おれは考えに沈んでいた。

posted by アスリア at 07:51| Comment(0) | 創作エッセイファンタジー