2019年01月27日

きつねとお月さま お月さまのさんぽ

お月さまのさんぽ

そらのてっぺんなんか、星がいっぱい広がっています。するどいツメのような三日月がのぼると、その星空が三日月を帽子のようにかざりました。
きつねが丘のうえから眺めていると、星空を身にまとった三日月が降りてきました。
「いっしょにさんぽをしましょう」
三日月は、そう言いました。きつねは、あわてて三日月の手を取って、いっしょに森の中を歩きました。
森の中は、昨日の雨でキラキラしていました。きのこの小さなかさや、落ち葉などが、三日月から輝く光できらめいています。
「しまったな、お弁当を持ってくればよかったな」
きつねは、ざんねんそうに言いました。
「この先には、お弁当を売ってるうさぎの店があるよ。お金はお星さまでいいそうだよ」
三日月がそういうので、森の奥へときつねたちは、ぶらぶら歩いて行きました。いたずら小僧のリスのガリ造は、急に森が明るくなったので驚いて巣から飛び出してきました。
「ねえねえ、どこへ行くの?」
ガリ造が聞くので、
「ちょっと散歩してるんだよ」
きつねが答えます。
「お弁当も、買いに行くんだよ」
三日月も、答えます。
「それじゃあ、ぼくもいっしょに行く!」
ガリ造は、ちょろちょろと巣から出てきました。きつねは、ガリ造を背中に乗せて、
「この先のうさぎの店、知ってるかい」
と言いました。
「知ってるよ」
ガリ造は、きつねの肩にのぼりました。そこからだと、森の奥もよく見えます。
三日月は、星空の帽子をちょっとかたむけて、うさぎの店のあるほうを示しました。
三日月が言ったとおり、森の奥にはうさぎの弁当屋さんがありました。いろいろな弁当があります。
「ぼくは、ドングリのおにぎりと、カキの実のジュースがいいな」
ガリ造が注文すると、きつねは、
「ぼくは、おいなりさんとぶどうのジュースがいいな」
と注文しました。
三日月は、ただ薄荷水を注文しただけでした。また太っちゃいやなんですって。
星空の帽子から、金色のお金を取り出すと、お月さまときつねとガリ造は、また丘の上に戻っていきました。
丘のうえから見える夜空は、星ひとつありません。だって、三日月がぜんぶ、帽子にしてしまったからです。でも、リスもきつねも気にしません。丘のうえからは、森も見えますし、遠くにかすむ人間の村も見えているからです。
「お母さんが見たら、きっと喜ぶだろうな」
ガリ造は、ちょっとさびしそうに言いました。きつねも、ちょっとさびしくなりました。ふたりとも、お母さんと会えなくなってずいぶんになるからです。
三日月は、薄荷水を少し口にふくませて、言いました。
「人間には、天国っていうところがあるけど、動物たちには月の世界がある。死んだらそこで、お母さんに会えるんだよ」
お月さまの言葉に、きつねもリスも、目をうるませています。
「月の世界?」
「そうなんだ。そこには病気も、苦しみもない。食べ物もたっぷりあって、水もきれいだよ。きみたちのお母さんも、そこできみたちを待っている。だから悲しいことなんて、ないんだよ」
ガリ造は、目をこすりました。ちょっと身を乗り出して、聞きました。
「ねえ、それはいつのこと? お母さんと会えるのは、いつのこと?」
「いつか、年を取ったあとに」
三日月は、そう言って細い身体を二つに折りました。
そして、ぽーん! とまるでオリンピックの選手のように跳び上がり、空へと戻っていきました。
暗い夜空に星がちりばめられる頃、きつねとリスは別れました。
三日月が、夜の爪痕のように光っていました。

posted by アスリア at 13:15| Comment(0) | エッセイ

2018年12月31日

月と少年と星の人


『冬と春の合間』からジングルベルが漏れ聞こえる。少年は、シャガールの絵そっくりの月が窓から昇り始めるのに気づいた。
月はこうこうと照りわたり、キラリとしずくをたらしている。真夜中ちかく、人狼は街の一郭でトナカイとソリが空を飛ぶのを見ている。あれはいま、この街の人々に向かって、ギフトを運んできているのだ。ぼくには関係ないのかな。
年を取った星の人が、赤い帽子をかぶってやってきて、ひらりと月から舞い降りた。仰天して見ているうちに、月に一礼して、帽子から氷の玉を取り出す。トナカイとソリが、ふうわりと地上に降り立った。少年は街の一郭で、少し首を傾ける。氷玉はそのまま、光の球になって並木通りの街灯をひとつひとつ点した。そうだ、もう少しで、もう少しで少年にもあの正体がわかるかもしれない。……ついていくと、木々の寒々とした枝が舗道に影をおとしていて、少年は悲しくなった。
トナカイとソリの国へ訊ねて行くとしたら、かれらからどんな風に迎えられるのだろうか。そのときも、少年は明るく笑い声をあげるだろうか。それとも、ひねくれた幼児のような目つきで、あたりをじっと見まわそうとするだろうか。だが、ダメだ。そんなことしたって、クリスマスギフトはもらえないに決まってる。
月から出た星の人がほっほっほーと笑い声をあげた。背中に大きなふくろをしょっている。
「ほー、きみはあの子かね」
「あ、あなたは……」
街の一郭で、なにかに魅せられたように、少年は星の人を見つめている。今よりのち、思い出は彼から去ることはあるまい。星の人が少年をさらって行く瞬間まで、彼は自分に素直に生きていたいと思った。
耳を澄ましてみると、クリスマスカロルがきこえてきた。少年が元の場所へ戻ってみると、お月さまは空高く登っていた。
すでに少年の存在はこなごなに砕かれて、果て知らぬ彼方へ押し流されていくのだろう。
北風が雪を降らし始めている。
少年の上にさりげなく覆いかぶさってくる夜空の星々や、並木の枯れた姿が、だんだん近づいてくるような気がする。どんなに少年がいま、悲しい思いをしていようと、どんなに少年のこころの真ん中が冷え切っていようと、あの月の人や星や並木たちは、さらに果てしない彼方を抱いて、胸をそびやかせて立っているではないか……。
少年は、自分の月を見つけてしまった。
街の時計がディンドン鳴った。

posted by アスリア at 14:31| Comment(0) | 創作エッセイファンタジー

2018年12月20日

きつねとお月さま アライグマのいたずら

あばれん坊のアライグマが、こんもりした丘の上からお月さまに石をぶつけてきました。
「いたい、いたいよぉ」
コブを作って泣いているので、きつねがアライグマを見つけて追いかけました。
「こら、なんてことをするんだ」
アライグマは、あかんべーをすると、森の中を駆けていきました。やぶを越え、花畑をよこぎり、小川をとび、柿の木の下まで一生懸命に逃げました。きつねはあとを追いかけます。やぶを越え、花畑をよこぎり、小川をとびました。柿の木の下を、アライグマがいま抜けようとしたときに、人間のかけたワナにかかって、がきっと足がとらえられてしまいました。
「わあ、いたい!」
アライグマは、おどろいてあばれましたが、ワナは足からとれません。
きつねはアライグマの足がワナにかかったのをみて、
「お月さまにいたずらしたむくいだよ」
と言って、コツンとアライグマをなぐりました。気がつくと柿の木から、落ち葉がひとつおっこちてきました。かさこそ、風が鳴りました。
「いたずらしないよ、もうしない。だから、ワナをなんとかして」
アライグマは、泣きながら言いました。
遠くでは、お月さまが、黄色い目をきろきろさせて、こぶをなでています。
「わたしのあげたメダルを使えば、なんとかなるかもしれないよ」
お月さまからもらったメダルを、ワナにはめてみました。すると、ワナがかちり、と開きました。
アライグマは立ち上がるなり、頭の上を見てあっかんべーとむき出します。きつねが再びコツンとやりました。お月さまは、いまは笑っています。
アライグマは、家へ帰るとからだじゅうが痛んで、熱が出たそうです。
お医者さまがやってきたのを見て、おしゃべりコマドリが歌に乗せて、うわさしました。
きつねが、「面倒をかけるなあ」と言いながら、おみまいに行きました。朝になっていました。森が薄白色になったとき、アライグマは熱がさめて、元気になり、冬のいい空気をすいに行くためにきつねといっしょに、あなぐらから出てきました。すると、どこかで見覚えのあるうさぎさんが、向こうから歩いてきました。
「おかげんはどうですか? きのうはたいへんでしたね」
と、うさぎさんはいいました。
だれかなとアライグマはいいました。きつねは肩をすくめて家に帰りました。
  メダルがキラリと光って、テーブルの上で露をしたたらせていました。

posted by アスリア at 16:55| Comment(0) | 創作エッセイファンタジー