2017年03月13日

月のアライグマ

海辺に住んでいるアライグマは、いつも動物たちや魚たちの洗い物をするのが、いやでいやでしかたありませんでした。


あるとき、アライグマは神さまにお願いしました。
「どうかわたしを、近くの農家に勤めさせてください。そこでわたしは、食事をつくりたいのです」
神さまは、農家を紹介してくれました。アライグマは、バッタやカエル、ヘビなどを料理してお百姓さんに出しましたが、お百姓さんは、気味悪がって、食べようとしませんでした。


アライグマは、がっかりしました。
「こんなおいしいものはないのに」
カエルだって、料理次第ではおいしくなるんです。でも、人間とアライグマでは、やはり好みが違うのです。

 

あるとき、白浜でカニを追いかけていたアライグマは、ふと海を見てこう思いました。
「海はいいなあ、なんの文句も言わない。わたしは、海になりたい」

 


するとどうでしょう。アライグマは、海になっていました。
海になったアライグマは、さまざまな魚たちを懐に抱きしめ、一生懸命、岸辺に波を打ち寄せました。


ざばーん、ざばーん。
太陽が出てきて、じりじりと海を照らします。魚たちは、とても活発です。昼にエサをとる魚。夜に狩りをする魚。プランクトンを食べる魚。
毎日、毎日、波を岸辺に打ち上げているうちに、だんだんアライグマは、飽きてくるのでした。

 


東の空から、太陽が昇ってきます。今日がまた、はじまるのです。
考えてみると、太陽ほど動物や魚たちを暖かく見守ってくれるところはない、とアライグマは思いました。
「太陽はいいなあ。みんなが感謝している。海だったら、これだけ一生懸命つくしても、当り前って顔する魚もいる」

 


と、アライグマは思いました。
するとどうでしょう。アライグマは、太陽になっていました。これでもう、だれにも文句は言わせません。
「神さま、ありがとう」
アライグマはそういうと、がんばってみんなを照らし始めました。
春の日は、ぽかぽかと照りわたります。
きらきらと、海の波がきらめきます。
ぴんぴん、魚がとびはねます。
太陽になってよかった。
アライグマは、胸がいっぱいになりました。

 

 

ところが、季節が変わると、いつまでもぽかぽかと照らすわけにはいかないのでした。動物たちからは、「もっと照らしてほしい」「いや、暑いのはいやだ」と注文をつけられます。魚たちは、「卵を産むから、夜を長くして」という注文も来ました。アライグマは、つらくなってきました。

 


しずしずと、月が海から昇ってきます。その表面には、くっきりと湖が見えています。
「ああ、久々に洗い物がしたい。勝手かもしれないけど月の湖に行って、思いっきり洗濯物をしたい」
アライグマは思いました。
するとどうでしょう。アライグマは、月の上にいました。


月の湖に、数え切れないほどの洗濯物が置かれています。


それは、魚の着物や、獣の洋服などでした。


魚たちと獣たちが、月の湖岸に立っておじぎしました。
「いままで、わがままいってごめんなさい。どうか、わたしたちの洗濯物を、洗ってください」
「いいですとも!」
アライグマは、張り切って腕まくりしました。

 

 

いまでもアライグマは、月の湖で、動物たちの洗い物をしているそうですよ。

posted by アスリア at 11:46| Comment(0) | 創作

2017年03月21日

おれはフェリックス

    おれはフェリックス

気まぐれは親ゆずりだが、それで損をしたことは一度もない。しかし、さすがのおれもカッとなった。おれは難しいことはわからん。ドイツのワイン畑で見張り番をするのが日々の暮らしだ。仕事に関しては人一倍誇りを持っているし、事実、いろんな人が褒めてくれる。


あるとき、おれがワイン畑でいつものようにパトロールしていると、その畑の入口で、一人の女が、照れたようにこっちを見ている。

「フェリックス、こっち来なさい」
だれだろう。見たこともない女だ。着ている服は高級そうだし、指にじゃらじゃらとダイヤの指輪がきらめている。はっきり言って、タイプじゃない。

おれが返事をせずにいると、女はつかつかと近づいてきて、おれの肩をつかみ、
「ああ、かわいい!」
ほほをすり寄せてくるのだ。冗談じゃない。貧しくとも働きがいのあるこの職場で、こんな甘ったるさにだまされるものか。
おれは手をふりあげて、そいつのほほをなぐりつけた。

「あーっ!」
駆け寄ってきたのは、おれの上司のヨハンだ。真っ青な顔をしている。
「どうだい、思い知らせてやったぜ」
おれがそう言うと、ヨハンはおれを引っ張って自分の腕の中に抱きしめ、


「ダメじゃないか、この人は畑の新しい持ち主だよ」
「あらあ、いいのよぉ。驚かせちゃったんでしょう。わたしが悪いの」
女は、しゃらりと言ってのけ、
「ヨハンさん、フェリックスを譲っていただけないこと? 給料は倍出すわ」


ヨハンのやつ、少し考え込みやがった。おいおい、だいじょうぶか。


「すごく役に立つんですよ。フェリックスが来てから、ぶどうの被害が少なくなりましたし、なにより牛や馬とも相性がいい。これほどの天才を、右から左へ……」
「一万ユーロ、出すわ。これでどう」
女は、高飛車に言った。
「は、では譲ります」
おれはこうして、女の家に引き取られた。

どうにも落ち着かない。仕事はおれの生きがいだった。それを取り上げられて、上げ膳据え膳の毎日。スレンダーだった肉体はぶくぶく太り、テレビ三昧で頭もパーだ。

家に帰ろう。

おれは、こっそり女の家を出た。
見上げると、ワイン畑などどこにもない。
見たこともない、灰色の建物が、ズラリと並んでいる。
きんきらのガラスが日光に映えていた。


ダメだ。
これじゃ、帰る前に迷っちまう。
おれはあっさりあきらめた。
以来、食事を出されても、水を差し出されても、一切口にしなかった。
おれは帰りたいんだ。

 

「フェリックス……。どうして言うことを聞いてくれないの? わたしがなにか、悪いことしたのかしら」
女は、心配そうにそう言った。
そして、決意をしたように、電話した。
「ヨハン、フェリックスの様子がおかしいの。早く来てちょうだい」

ヨハンは、すっかりやつれていた。
おれもきっと、おなじぐらいやつれているだろう。
「フェリックス!」
あいつの顔が、おれを見るなりパッと輝いた。
「会いたかった! あんたがいなくちゃ、農園はやっていけないよ」


「にゃごー」
おれもそう、答えた。
「しょうがないわね。あんたたちの友情のほうが、わたしの愛情より強かったってわけか。帰っていいわ」
女は、脱力したようにそう言った。

 

おれは今では、農園のウラ番だ。
ヨハンは、おれにすっかり参ってる。
おれを抱き上げなで回し、
「おまえはほんとうに、役に立つ猫だなぁ」
と言うんだぜ。
まったく、それは事実だけどな。

posted by アスリア at 14:58| Comment(0) | 創作

2017年03月27日

猫との約束

猫との約束

捨て猫を拾って助けてあげる仕事をしている篠原は、ある日不思議な話を聞いた。
「近くの化物屋敷に猫が出て、夜な夜な人を襲っているらしい」

化物屋敷というのは、篠原の近所にある屋敷で、近いうちに修繕工事が始まると言いつつ、なかなか進んでいない。どうやらそこに猫が住み着き、人に迷惑をかけているようだ。あの荒れ果てたビルに、どれだけの猫が住んでいるのかは判らない。しかし、近所の人を襲うようなら、なんとかしなければ。


篠原は、猫缶を持ってその化物屋敷を訪れた。


その屋敷は日本家屋になっていて、あちこちの柱が腐っていた。屋根はボロボロで、扉は半分壊れている。大家さんからは、中に入っていいと言われていたので、篠原は扉を開けて中に入っていった。


うすぐらい部屋の中に、たったひとり、おじいさんが座っている。
「何しに来たのじゃ」
と、おじいさんは言った。篠原が事情を説明すると、おじいさんはうーむ、とうなり声を上げて、人間は信用できない、とか、かわいがっていた猫をすぐ捨てる、とか、いろいろな欠点をあげつらうのである。

「おじいさんは、なにものですか」
篠原が問いかけると、そのおじいさんはにやっとヤニのついた歯を見せて、
「わからんか。わしは化猫じゃ。人間をうらんで、おまえさんをとりころしてやろうと思っておるのだ」
というのである。


篠原は驚いたが、胸に手を置いて自分を落ち着かせ、手に取った猫缶をかざすと、
「ぼくは猫を助ける仕事をしています。この猫缶でおなかの空いた猫を助けてあげて、自分の家に引き取ろうと思っています」
そんな風に言うと、おじいさんは、


「おまえのような若造に、なにができる。捨てられた猫をすべて引き取れるのか」
と、無理難題をふっかけてくるのである。
そこで篠原は、


「そりゃ、無理なことかも知れないけれど、できるだけのことはしているんです。猫に手術をしたり、引き取り手を探したり。ぼくなんて、もう二十匹も猫を飼ってます」
「ほお」
おじいさんは、少し驚いたように目を見開きました。
「ねえおじいさん。化猫になるより、かわいらしい猫になって、一緒に暮らしませんか」
と、篠原が言うと、おじいさんは肩をすくめて、


「いまさら元にはもどれない。だが、ほかの猫たちが、ここに遊びに来る。そいつらの面倒を、おまえさんが見てくれるのなら、人を襲うことはやめよう」
「もちろん、そうします」
篠原は、手を差しのばして固く握手した。

 

 

その数週間後、どうしても引き取り手のないおじいさんの猫が、廃ビルで見つかった。
篠原は、それを例の化猫のおじいさんだと思って飼いはじめると、その猫はとても優秀で、都会に住む大きなネズミを次々とやっつけてしまった。


テレビ局の人までやってきて、引き取り手を探しませんか、と聞かれた篠原は、
「とんでもない。化猫のおじいさんとの約束ですから」
と言ったそうだ。
テレビ局の人はそれを聞いて、


「二十匹も猫を飼っているのに、まだ飼ってるよ」
と陰口をたたいたが、篠原はおじいさんの猫を特にかわいがり、その赤い毛の色から
「エビスくん」
と呼んでいるそうだ。

posted by アスリア at 12:52| Comment(0) | 創作