2017年04月10日

パルケス国の危機 03


俺たちは、さらに先へ進んだ。
道なりに、ロープが垂らされている。そこを伝って渡っていくと、目の前に滝が現れた。大きな滝で、虹がかかっている。インパス山は低山であるから、滝があるのは不自然なのだが、実際にあるのだから仕方がない。しかも滝には虹がかかってるばかりか、空中に岩が浮かんでいる。こびとたちがそこで何かを運んでいるようだ。ここが魔法の山であることを、俺とメリアは改めて実感した。こびとたちは、人間の膝あたりに頭が来るほどの大きさで、なにか円形のものを持って忙しげに右往左往している。攻撃する気配はなさそうだ。
「困った困った」
「仙人さまに叱られる」
「こびとの鏡が、壊れてしまった」
口々にそう言い合っている。
「どうしたんですか」
止める間もなく、メリアが大声で彼らに呼びかけた。すると、蜂のように右往左往していた彼らは、時間が止まったかのように停止した。
「ニンゲンだ」
「こんなところに、ニンゲン?」
ささやきは、滝の音にも負けていない。なにか、特殊な魔法でもかかっているのだろうか。
こびとの一人が、こちらを見下ろした。
「武器は持ってないぞ」
「仙人さまに、会いに来たのかな」
木の葉のざわめきのようなささやきが、滝の轟音からこぼれてくる。
「妖怪に会って、槍を奪った。ところがその槍は、消滅してしまった」
俺は事情を説明しようとした。
とたん。
耳をつんざく金切り声とともに、いっせいにこびとたちが岩から落ちて来た。
俺は、反射的に身構えた。なりが小さいため迫力は、あまりないが、これが第二関門だとすると、手荒い攻撃が待っているはずである。少なくとも、妖怪はすぐに槍で攻撃してきた。
こびとたちが地面に着地した。着地するなり、俺たちの周囲を走り回りはじめた。チュニック姿の愛くるしい表情を浮かべた、五人の小太りの連中だ。みんな同じ顔で、女。肉感的なその容子に、違和感があった。これが、第二関門なのか?
「ニンゲンが、来た」
「仙人さまのおっしゃったとおり」
「われわれの問題を、解決してくれる」
わらわらわら。
こびとたちは、周囲で走り回っている。
「ちょっと待て。ここは、第二関門……ぬ」
先頭が、コケた。
どどどっ。
積み重なるように、こびとたちは、足をもつれさせて身体を投げ出した。
ドミノのように倒れたこびとたちを拾い上げたのは、メリアだった。
「だいじょうぶですか?」
敵意のないのはハッキリしたが、なんともはや、めちゃめちゃだ。
「この第二関門まで来たニンゲンは、あんたらが初めて」
こびとは、うれしそうにメリアの腕の中で、キーキー言った。俺は五人ほどいる彼らを見下ろし、抱きしめるメリアと彼らを見比べた。
「だいじょうぶか」
どうやら試験場には来られたらしい。第二関門の試験がなになのかは、いまだにサッパリ判らないのだが。
声をかけてみて、こびとたちが、クスクス笑うのが気になった。チュニックは、ほとんど胸がはちきれそうだ。ぽよよーんとチュニックの紐がほどけている。俺は目のやり場に困ってしまった。
「けがは、なさそうだな。いったいなにごとなんだ。困っていたようだが」
「そうそう」
メリアの腕中の右端のこびとたちが、大きく頷いた。
「我らは、困っている」
「困っているから、困っている」
「大切なものを、壊してしまった」
「直せるのはここに来られたニンゲンのみ、と仙人さまに言われている」
「直して欲しい」
「直したら、ここを通してやる」
俺とメリアは、顔を見合わせた。
「出来ることは、せいいっぱいやるつもりだ」
俺は、メリアからこびとを受け取り、地面に下ろしてやりながら、
「だが、あまり期待して欲しくないな。俺の使える魔法は、リカバリーとライトショックの二つだけだ。人を縛り付けるスティックリーは、もう使ってしまったから、今日中には使えない。リカバリーはケガを治したりする魔法だし、ライトショックは軽めに衝撃を与えるだけだ」
「だいじょぶ」
こびとは、ニコニコ愛想たっぷりに答えた。
「ちょっと鏡を直すだけ」
「鏡?」
俺は、当惑してこびとを見つめた。
地面の五人は、いっせいに頷いた。
「ケルン国内を映す鏡だよ」
「国のニュースが判るんだよ」
「それを仙人さまに伝えるのが我らの仕事なんだよ」
「それなのに、ビブルが壊したんだよ」隣を示す、こびと。
「ビブルじゃない、ハブルが壊した」隣を指さすビブル。
「ハブルじゃない、フブルが壊した」その隣のハブルは、また隣を示す。
「フブルじゃない、ヘブルが壊した」ヘブルは、最初のこびとを示す。
「いや、だれが壊したかは問題じゃない。鏡を戻すのが肝腎なんだろう」
訂正を試みると、五人はいっせいに、
「あはははははは、そおだね」
「一本取られたね」
「我らより知恵が回る」
「妖怪を倒す勇気もあるし」
「期待できそう」
「すごい実力だもんね」
「鏡、直せるかな」
「手がかかるかも」
「時間もかかるかも」
「我らも手伝おう」
おう! と五人は拳を振り上げた。
俺は、胸の内に、すうっと渦巻くなにかを感じていた。時間がかかる。手がかかる。万が一、夕方に間に合わなかったら、明日にはケルン国は滅んでしまう。じんわりと、メリアの瞳に宿っているのは、夏の暑さの汗では決してありえない。
―――俺に、対処できるのか。
しょぼい魔法三つしか使えない、才能のない魔法使い。
そのうち一つは、使ってしまった。
なのに関所守護という重要任務についているこびとの難問を、解くことができるのか。
「服は、脱いだ方がいいよね」
こびとの一人が、俺の足元にやってくると、チュニックの紐をほどきはじめた。
「おい、おい、おい!」
とんでもないことになりそうだ。俺は思わず、こびとの頭をおさえつけた。
「なんで脱ぐんだ。鏡と、どう関係があるんだよ!」
「だって依頼するときは、こびとはみんな、脱ぐんだよ?」
そのこびとは、こともなげに答えた。
「我らの色気で、鼻血ぶー」
「いらんわ!」
俺は突っ込んでしまった。
「そお? 残念」
「無念」
「色気より食い気かもね」
「あ、それはあるかも」
五人の会話は、一気に盛り上がってしまう。
「なにを、食べたい?」
「カエルの死骸」
「ヒルの干し物」
「吸血コウモリの唐揚げがあるよ」
俺はイライラした。
「それはいいから、早く鏡の所へ連れて行け」
「じゃ、こっちね」
  リーダー格らしきビブルが、先に立って歩き出した。

posted by アスリア at 16:11| Comment(0) | 創作