2017年09月03日

本は文化か芸術か

活版印刷のはじめが 「聖書」 ということもあって、本の歴史的な背景には、
「文化遺産の継承」という側面があるような気がしますが、
昨今の傾向では、「本は売れてなんぼ」
というむきもあります。


名作を読め、といわれても、何がいいのかわからない。
娯楽作品のほうがわかりやすいし、面白い。作家になるなら、そういうひとがいい。
そうは言っても、流行に合わせていけるひとなら 売れっ子にもなれるでしょうが、そういうひとばかりじゃないのが世の中。
売れなくても、書き続けるしかないひとだっているわけです。
むしろ、そっちのほうが大多数です。


お金をもらっているか いないか の違いだけで、ネット上では対等になってしまうという小説の世界。
わたしは、大多数の売れない小説家にしかなれないんだろうとは思ったりしますが、本は芸術ではない、商品化されるのが当然、という意見には首肯できなかったりします。

初心忘るべからずですよ!
本がこれほど信頼感があるのは、芸術家の存在があるからです。

あんまり本を読み過ぎてイカれてしまった「ドン・キホーテ」の話とか。
そのパロディ版が出てきて対抗処置として続編をつくっちゃったセルバンテスの話とか。

本がいかに巷に影響を与えているかということ、その背景に芸術があり、過去に自分の信念を貫き通すひとがいたからこそ、現代が成り立っているという事実を斟酌しないのは、歴史をおろそかにする行為であり、いずれそのしっぺ返しが自分にも降りかかってくることでしょう。

本が売れてなんぼ、というのは、出版社の勝手ないいぐさです。
読者は、いい本を選びたい。流行ではなく、ほんとうに面白い物を、求めているのです。

posted by アスリア at 13:16| Comment(0) | エッセイ

2017年09月08日

カネクレ虫 リライト版

カネクレ虫

南 アサトが帰ってみると、そこにはでかい虫がいた。
アサトは、生命保険の営業である。今日もいやな上司にたっぷり絞られて、やっとノルマをこなして帰ってきたところであった。
アラサーのアサトは、ひとりものである。
ガミガミどやす上司に悩まされてきた。
バーで一杯飲んで帰ってきたところである。
手料理を作ってくれる奥さんもいないのに、なぜか……、

家にでかい虫がいる。
直立している。

アサトは、扉をばたんと閉めた。
いま、何時だ? おれは酔っ払って、夢でも見ているのか?
それから、そっと扉を開けた。
あいかわらず、薄暗い部屋の中に、でかくて丸い虫がいた。

初秋のころである。夏の虫は、ひととおりいなくなっていた。だから、セミやトンボではありえない。
その虫は、背中がまるくて、足が六本あり、金箔でも塗ったみたいに輝いていた。

  たしか、カフカの小説に、いきなり虫になった男の話があったなとおもいながら、アサトは殺虫剤をさがして部屋を横切ろうとした。部屋はきれいに片付いている。CDも漫画本も、営業用の資料も、食料も、あるべき場所におさまっている。だれが片付けたのだろう。

まさか、虫が?
ありそうにない。
すると、虫は、長い触覚を動かしながら、

「カネクレ、カネクレ」
と、しゃべった。
アサトは、スーッと酔いが覚めてくるのを感じた。

虫が、しゃべった?
茫然としているアサトに、虫は両手(?)を差し出して、
「カネクレ」
と言うのである。

「おまえは……、なんだ?」
アサトは、やっと言った。化物なのか? それとも、遺伝子操作による新しい生物なのか?
AIによる疑似昆虫ロボットという線もあるかもしれない。

「カネ、スキダ」
虫は、答える。アサトは、じろじろ相手を眺めた。どうやら、相手は攻撃する意図はなさそうだ。敵意がないのなら、慌てる必要はないだろう。それに話せる昆虫なんて珍しい。

「カネの嫌いな奴がいたら、顔を見てみたいね」
「アタシ 置イタラ カネ 一杯 アゲル」
虫は、拝むように両手(?)をこすり合わせた。
「アタシ カネクレ虫。イルダケデ カネ 集マル」
「へー」

本気にしたわけではないが、いるだけでお金が集まる虫というのは興味深い。大学あたりに持って行って、研究対象に売り飛ばすというのもアリかもしれない。
  それに、この虫は、部屋の半分を占拠するほどの大きさである。殺虫剤が効くとも思えない。
「カネ 集マッタラ 半分クレ。カネクレ」

カネクレ虫は、そう言った。
追い出してもよかった。寝る場所がなくなってしまう、迷惑だと。カネが集まるなんて、信じられるかと。
「あんたのエサは、カネなのか?」

カネクレ虫に、アサトは問いかけていた。
「カネ! カネ! 喰ッタラ 増エル!」
ものは試し、ということわざもある。クラウド・ファウンディングに投資したのだと思えばいいだろう。違法なことはないだろうな、と確認した後で、アサトは二百円ほど、そのカネクレ虫に喰わせてやった。

しゃきーん!
虫の目の色が変わり、お尻からなにかが出てきた。
「―――馬券?」
アサトには、縁のなさそうな券である。
「明日のレース、これで勝つ」

虫は、少し聞き取りやすくなった声で言った。
アサトは、半信半疑だったが、ひとまずその馬券を預かって、虫を廊下に追い出し、部屋に布団を敷いて寝た。

 

営業回りの隙に、馬券を換金した。
なぜか大穴が当たっており、一万円になっていた。

「すげ……!」
アサトは、カネクレ虫を見直した。約束通り、半額をカネクレ虫に渡す。
すると、こんどは「パチンコの玉がよくでる台」と書かれた情報が、お尻から出てきた。

「カネクレ! もっとくれ!」
カネクレ虫は、要求した。
アサトは、その情報をもとにパチンコ屋へいって連戦連勝。パチンコ玉をパチンコ店で景品に交換し、それを景品交換所で現金に交換した。

 

こうして、アサトは、徐々にお金が増えてきた。
最初は、小遣い稼ぎ程度だったのだが、だんだん生活費に充てるようになっていった。

ガミガミ言われて働くのがばからしくなってきたので、さっさと仕事を辞めて、カネクレ虫に投資するようになった。

お金に余裕が出てきたため、株にも手を出したところ、北政府の脅しに対抗する日本政府とアメリカの緊張が、景気にいい影響を及ぼしたらしく、面白いようにお金がどんどん増えていく。

いつの間にか、アサトは、億万長者になっていた。

 

そうなってくると、アサトにおべっかを使ってお金の出所を知ろうとする人間や、成功の秘密を聞きたがるマスコミが現れる。
近所迷惑になったこともあって、アサトは引っ越すことにした。

その旨をカネクレ虫に言うと、
「アタシはここがいい! ここに、愛着があるの!」

という返事であった。
  カネクレ虫が生まれたのがここなので、ここ以外で暮らすなんて考えられないというのである。

アサトは、困ってしまったが、カネクレ虫にばかり頼っている時期は、もう終わったと思い、
「それじゃ、これでお別れにしよう」

と、エメラルドのブローチを差し出した。虫にあげるには高価なプレゼントだが、世話になった礼としては少し安かったかもしれない。

すると、カネクレ虫は、うれしそうにブローチをもらうと、
「カネだわ! カネだわ!」
といって、いきなりがぶりと噛みついてしまった。

あっと思うと、次の瞬間には、カネクレ虫はもぐもぐブローチを食べ尽くし、そのまま口を触覚でぬぐって、「おいしかったわ」と言うのである。

その直後。

ぶくーっとカネクレ虫のおなかがふくらんでいった。
「わー、たいへん! 子供ができちゃった!」
カネクレ虫は、そう叫んだ。

 

ぞろぞろと、蜘蛛の子のように現れたカネクレ虫の子供たちは、アサトの財産をすべて食い尽くすと、どこかへ散会してしまった。どうやってかは知らないが、銀行に預けておいたお金まで食って立ち去ってしまったのだ。親ほど、土地に愛着があるわけではないらしい。

億万長者から、一気にもとの貧乏人にもどったアサトは、また営業に戻った。

昔といまとでは違うことがある。
カネを喰わなくなったカネクレ虫が、話し相手になってくれることである。
だから、どんなに厳しいノルマと激しい罵倒でも、アサトは耐えていけるのだ。
カネクレ虫の正体がなんであろうと、今となってはアサトにはどうでもいいことであった。

posted by アスリア at 17:37| Comment(0) | 創作

2017年09月28日

パイナップルの真実

パイナップルの真実

「誰がなんと言おうと、この土地は誰にも売らん」
じっちゃは、いかついあごをつきだした。
ところは南の島のある村である。戦争中には激戦地だったこのあたりだが、いまはすっかり平和になって、あちこちでパパイヤやマンゴー、パイナップルなどを栽培している農家も多い。 日本から、この南国のフルーツを作りたいので、土地を売ってくれと言う打診が、おれのところへ来たのは、つい先日のことだ。じっちゃの相続人はおれだけだから、いずれはその土地もおれのものになるのだ。少し早く譲ってもらったって、構わないだろう。
と、じっちゃを説得したのだが、
「ここは誰にも売らん」
の一点張りであった。
そこで、おれも一計を案じた。
じっちゃの好きなものを食べさせて和んだ隙にこの件を提案してみるのだ。
おれは、じっちゃの好きそうなものがなにかを考えてみた。

第二次大戦中には、食べられなかったという、日本の寿司などはどうだろう?
世界的にも有名だし、この村の連中の評判もなかなかいい。
じっちゃは贅沢することを知らないから、寿司ぐらいならおごってやってもいいだろう。
今後の儲けを考えれば、そんなことぐらいどうってことない。

おれがじっちゃに、「どうだろう、町の寿司屋に寿司を食いに行かないか」
と、誘ってみると、じっちゃは顔をしかめて言った。
「寿司だぁ? 日本人の作ったものだろう? ロクなもんじゃねー」
偏見である。日本人だって、立派にいろんな商品を作っている。トラクターでどれだけのひとが、辛い畑仕事から解放されたことか。
ジープで、どれだけのひとが、歩きにくいジャングルのでこぼこ道をすいすい歩けるようになったことか。
おれは、言葉を尽くしてその事実を訴えた。
じっちゃは、ぷんと横を向いてしまった。
「日本人は、ロクなものを作りゃしない。そのジープだって、中東では武器として使われているって話だろ。口で平和を唱える死の商人なんかに、先祖代々の土地は売れないね」
取り付く島もないのである。
おれは、ほとほと弱ってしまった。
日本の商社マンに、その話をすると、
「まあ、そういうこともありますよ。おじいさんには、あとで説明するとして、いまはその土地を見せていただきたい」
と、押しが強いのである。
「しかし、あれほど売り渋っている土地を,勝手に見せるわけには」
おれがためらっていると、
「いいんですか? あなたのお仲間は、すでにパパイヤやパイナップルで成功を収めているんですよ。この波に乗らなければ、あなたは一生貧しい農民のままですよ?」
商社マンは、メガネをきらめかせてそう言った。
おれは、じっちゃのパイナップル農園を眺めた。
この農園を日本に売り渡せば、一攫千金、大金持ちである。欲しかった冷蔵庫、クーラー、テレビ、車、なんでも買える。なにより、じっちゃの労働が減るのが嬉しい。じっちゃももう、トシだ。そろそろ引退して、楽隠居させてやりたい。
おれはたったひとりの孫として、じっちゃの財産を、じっちゃのために使う義務がある。
そんなタテマエとは別に、本音もあった。
カネがいっぱいあれば、女はより取り見取り。札束をちらつかせてセレブの仲間入りを果たし、映画スターと肩を並べる。パイナップル農園を売れば、それだけのカネが手に入るのだ。じっちゃの土地は、それほど肥沃で広大だった。
なぜ、じっちゃは、それがわからないんだろう。
もちろん、土地に愛着があるのはわかる。ここを出ていくことになったら、長年の友だちとも縁が切れる。しかし、なにかを手に入れるためには、なにかを犠牲にしなければならないのだ。じっちゃも、カネをたくさんゲットできれば、考え方が変わるだろう。

おれと商社マンは、パイナップル農園の奥へと進んでいった。
「この辺から、ジャングルになってますが、開拓すれば大丈夫です」
おれは、奥へと案内しながら言った。商社マンは、おっかなびっくり、腰をかがめてついてきている。日焼けした肌に、虫がまとわりついている。
「この辺は、日本軍と地元住民が戦った激戦地でしてね。じっちゃは、その戦争に参加したらしいんです。あまり多くは語りませんが」
おれは、案内をしながら説明する。商社マンはうなずきながら、ジャングルへと入っていく。
「この辺は、じっちゃは手つかずのまま放置しているんですよ。農園を譲ることになったら、整備の方、よろしくお願いします」
おれはていねいにそう言うと、頭を下げた。
商社マンは、ふと、足を止めて手に何か拾い上げた。
「これは?」
見ると、小さな灰色の物体で、上の方に導火線が引いてある。
「あ、あぶない! それは、パイナップルです!」
「なーんだ、人の悪い。新しい種類の果実を開発していたんですね」
「そうじゃない。第二次大戦に使われていた、日本軍の手榴弾です!」
あわてて商社マンがそれを放り投げると、どかん! と爆発音がして地面が飛び散った。
「こんなのが、ゴロゴロしてるんですか」
商社マンは、少し青ざめている。
「―――じっちゃが、売りたがらないわけが、やっとわかった……」
  商談は、破談に終わった。

posted by アスリア at 08:27| Comment(0) | エッセイ