2018年10月10日

バディは雪女

バディは雪女

鈴宮 とも子

溶けるようななアスファルトの道。午前十時。ドライアイスの着物を着せて雪女とオレは、リッチそうなビルのまえに立っていた。そのビルの名は「雪女派遣会社」。オレの友人が立ち上げた会社だ。オレは営業を担当している。社員はオレだけだ。

ロビーでは、リュックを背負った五人ほどのハイカーたちが、不安そうに待っていた。

「こんにちは」

オレは、背後でもじもじしている雪女を押し出した。雪女はか細い声で、

「よろしくお願いします」

「ああ、それが噂の」

リーダーが立ち上がった。

「一回五百円で氷の息吹を吹きかけてくれるそうですね?」

「そのとおりです」

オレは、思いっきりあいそよく手をもみながら答えた。

「低山登りにおける熱中症対策には、もってこいの妖怪です!」

「へえ、熱中症に雪女ねえ」

「そこがうちの商売の秘訣ですが、我が社と雪女たちとの約束で、五百円玉が品切れにならない限り、氷の息吹を吹きかけてくれるのです」

オレはそう、説明した。

「約束は、きちんと守るよ」

リーダーは、財布を振った。じゃらじゃらと、たっぷりの硬貨が鳴る音がする。

「ひとつだけ、注意して欲しいんですが、雪女は非常にデリケートな妖怪ですので、けっしてドライアイスの着物に触れないでくださいね」

こうしてオレたちは、山に登り始めた。ギラギラ照りつける太陽も、雪女の氷の息吹にはかなわない。

「暑くなってきたな」

「五百円玉を雪女に渡そう」

こうして五百円玉と引き替えに、氷の息吹を吹きかけてくれるのだ。

暑くなってきては冷気を要求しているうちに、山頂付近に達してきた。あとちょっとでゴールだ。

ところが。

「おや、ない、ない!」

リーダーが、青ざめて財布をまさぐった。あれだけあった五百円玉を、ハイカーたちが使い切ってしまったのだ。

「それでは、約束ですから」

雪女は、氷の息吹をやめてしまった。

とたん、猛烈な暑さが突き刺さってきた。脳天が蒸発しそうだ。喉はひあがり、汗はだらだら出てきて、身体中はべとべと。

「たのむ、おまえのその着物で冷やしてくれ。あとでちゃんとお金は払うから」

リーダーは、雪女の着物の裾に触れた。

とたん、着物がどっと蒸発し、現れたのは小麦色の肌をしたビキニ姿の雪女。

「きゃっ」

雪女は胸を隠した。

ちゃりんちゃりんと硬貨型の雪が降ってきた。その雪に誘われるように、毛むくじゃらの雪男も出てきた。その雪男こそ、オレの友人でこの会社社長である。

「どうした、なにがあった」

雪女は、事情を話した。

「着物は弁償します。山を下りるまで、雪女を同行させてやりたいんですが」

オレは申し出てみた。

雪男は、雪女をものといたげに見つめた。

雪女は、涙をいっぱい溜めている。

「せっかくドライアイス焼けしたのに、台無しだわ」

くやしそうに、雪女は言った。

「着物が蒸発なんて、ひどすぎる。あんたらには、それなりの代償を払ってもらう」

そういうと、雪男は雪女に合図した。

雪女はうなずき、すさまじい冷気を浴びせてきた。ちゃりんちゃりんという雪の音が大きくなった。

「そんなつもりじゃ、なかったんだ……」

リーダーの言葉もむなしく、おれたちはたちまち凍りついてしまったのだった。

posted by アスリア at 17:25| Comment(0) | 創作エッセイファンタジー