2018年12月13日

いのっこ いーの?

  あおいお姉ちゃんとゆいが小己斐島に行ったこの日、二人ともいっぱい涙を浮かべていました。
「おばあちゃんに、会えない」


おばあちゃんは、病気なのです。お姉ちゃんと二人で会いにい行けば、きっと病気もよくなるでしょうに、会わせてくれないんです。
お姉ちゃんとゆいが小己斐島に来たのは、ここがいつもおばあちゃんといっしょに、散歩にくるところだったからです。


おばあちゃんは、小己斐島を見ながら、
「あそこには、神さまがいるんだよ」
そして神さまは、一生懸命、おねがいすれば、かなえてくれるって言ってた。


ゆいとお姉ちゃんは、小己斐島の近くの、あずまやに近づきました。
「ゆい、いっしょにおねがいしよう」
お姉ちゃんが、言いました。
ゆいは、島に向かって、手を合わせてつぶやきました。
「おばあちゃんに、会いたい……」


そのとき、背後でぽーん、と音を立てて、なにかの気配がしました。
こわくなって、お姉ちゃんにしがみつくと、お姉ちゃんはしっかりと防犯ブザーをにぎりしめながら、
「だれっ!」
と叫びました。ゆいはいそいで小己斐島の道に落ちている小石を拾います。

すると。
ぬうっと出てきたのは、なんだかよくわからない、へんてこりんな生き物でした!
「いーの、いーの」
ちょっとスネたような顔で、そいつがおしりを、ぷりっぷりっと振りました。
「あれっ、この子……、いのっこ?」
ゆいがそう言うと、相手は、
「いーの、いーの!」


とうなずきます。そうです。この子は、井口公民館でおなじみの、ゆるキャラでした!
しかも、生きているんです。くるんとしたヒゲといい、キラキラ輝くひとみといい、ほんとの生き物なんです!
お姉ちゃんは、防犯ブザーをおさめて、
「いのっこが、なんでここに? 井口公民館にいたんじゃないの?」
ゆいは、
「きっといのっこは、おばあちゃんにあわせてくれるんだよ。そのために、出てきてくれたんだよ」


いのっこは、いーの、いーのとうなずいています。
「じゃあ、病院に連れて行ってよ。なかに入れてくれないと思うけど」
お姉ちゃんは、用心深く、そう言いました。信じたわけじゃ、ないけれど、どこからどうみても、いのっこは、生きて、歩いていたからです。


「いーの、いーの!」
いのっこは、そう叫ぶと、お姉ちゃんとゆいを抱きしめて、空を飛びました。
「わー!」
あっという間に、二人は病院に着きました。その病院の一階に、おばあちゃんは入院しているのです。
看護師さんが、
「おばあちゃん。ちゃんと食べないと、からだに悪いですよ」
おばあちゃんを叱っています。
「ゆいとあおいに会いたい。会えばきっと、元気になる」
おばあちゃんは、そう言いました。
看護師さんが立ち去ると、いのっこは二人を抱えたまま、そーっと病室に入っていきました。


おばあちゃんは、いのっこを見つけて、驚いたように息を呑みましたが、ゆいとお姉ちゃんを見ると、たちまち青ざめた顔が明るくなりました。
「おばあちゃん、会いたかったよ」
二人は、おばあちゃんに抱きつきました。
ゆいは、小己斐島で拾った石をおばあちゃんにプレゼントしました。


「早く良くなってね」
看護師さんが、戻ってくる気配がします。ゆいとお姉ちゃんは、ふたたびいのっこに抱きしめられました。
そして、二人で、また空を飛んで、小己斐島まで戻ってきました。

気がつくと、いつの間にか夕方でした。
いのっこもいないし、病院に行ったのも、ウソみたいです。
家に帰った二人は、ママにその話をしましたが、ママは笑っているばかりでした。

おばあちゃんを元気にしたのはだれだろう、と、病院のお医者様がふしぎがっていた、ということです。

posted by アスリア at 05:40| Comment(0) | 創作エッセイファンタジー

2018年12月20日

きつねとお月さま アライグマのいたずら

あばれん坊のアライグマが、こんもりした丘の上からお月さまに石をぶつけてきました。
「いたい、いたいよぉ」
コブを作って泣いているので、きつねがアライグマを見つけて追いかけました。
「こら、なんてことをするんだ」
アライグマは、あかんべーをすると、森の中を駆けていきました。やぶを越え、花畑をよこぎり、小川をとび、柿の木の下まで一生懸命に逃げました。きつねはあとを追いかけます。やぶを越え、花畑をよこぎり、小川をとびました。柿の木の下を、アライグマがいま抜けようとしたときに、人間のかけたワナにかかって、がきっと足がとらえられてしまいました。
「わあ、いたい!」
アライグマは、おどろいてあばれましたが、ワナは足からとれません。
きつねはアライグマの足がワナにかかったのをみて、
「お月さまにいたずらしたむくいだよ」
と言って、コツンとアライグマをなぐりました。気がつくと柿の木から、落ち葉がひとつおっこちてきました。かさこそ、風が鳴りました。
「いたずらしないよ、もうしない。だから、ワナをなんとかして」
アライグマは、泣きながら言いました。
遠くでは、お月さまが、黄色い目をきろきろさせて、こぶをなでています。
「わたしのあげたメダルを使えば、なんとかなるかもしれないよ」
お月さまからもらったメダルを、ワナにはめてみました。すると、ワナがかちり、と開きました。
アライグマは立ち上がるなり、頭の上を見てあっかんべーとむき出します。きつねが再びコツンとやりました。お月さまは、いまは笑っています。
アライグマは、家へ帰るとからだじゅうが痛んで、熱が出たそうです。
お医者さまがやってきたのを見て、おしゃべりコマドリが歌に乗せて、うわさしました。
きつねが、「面倒をかけるなあ」と言いながら、おみまいに行きました。朝になっていました。森が薄白色になったとき、アライグマは熱がさめて、元気になり、冬のいい空気をすいに行くためにきつねといっしょに、あなぐらから出てきました。すると、どこかで見覚えのあるうさぎさんが、向こうから歩いてきました。
「おかげんはどうですか? きのうはたいへんでしたね」
と、うさぎさんはいいました。
だれかなとアライグマはいいました。きつねは肩をすくめて家に帰りました。
  メダルがキラリと光って、テーブルの上で露をしたたらせていました。

posted by アスリア at 16:55| Comment(0) | 創作エッセイファンタジー

2018年12月31日

月と少年と星の人


『冬と春の合間』からジングルベルが漏れ聞こえる。少年は、シャガールの絵そっくりの月が窓から昇り始めるのに気づいた。
月はこうこうと照りわたり、キラリとしずくをたらしている。真夜中ちかく、人狼は街の一郭でトナカイとソリが空を飛ぶのを見ている。あれはいま、この街の人々に向かって、ギフトを運んできているのだ。ぼくには関係ないのかな。
年を取った星の人が、赤い帽子をかぶってやってきて、ひらりと月から舞い降りた。仰天して見ているうちに、月に一礼して、帽子から氷の玉を取り出す。トナカイとソリが、ふうわりと地上に降り立った。少年は街の一郭で、少し首を傾ける。氷玉はそのまま、光の球になって並木通りの街灯をひとつひとつ点した。そうだ、もう少しで、もう少しで少年にもあの正体がわかるかもしれない。……ついていくと、木々の寒々とした枝が舗道に影をおとしていて、少年は悲しくなった。
トナカイとソリの国へ訊ねて行くとしたら、かれらからどんな風に迎えられるのだろうか。そのときも、少年は明るく笑い声をあげるだろうか。それとも、ひねくれた幼児のような目つきで、あたりをじっと見まわそうとするだろうか。だが、ダメだ。そんなことしたって、クリスマスギフトはもらえないに決まってる。
月から出た星の人がほっほっほーと笑い声をあげた。背中に大きなふくろをしょっている。
「ほー、きみはあの子かね」
「あ、あなたは……」
街の一郭で、なにかに魅せられたように、少年は星の人を見つめている。今よりのち、思い出は彼から去ることはあるまい。星の人が少年をさらって行く瞬間まで、彼は自分に素直に生きていたいと思った。
耳を澄ましてみると、クリスマスカロルがきこえてきた。少年が元の場所へ戻ってみると、お月さまは空高く登っていた。
すでに少年の存在はこなごなに砕かれて、果て知らぬ彼方へ押し流されていくのだろう。
北風が雪を降らし始めている。
少年の上にさりげなく覆いかぶさってくる夜空の星々や、並木の枯れた姿が、だんだん近づいてくるような気がする。どんなに少年がいま、悲しい思いをしていようと、どんなに少年のこころの真ん中が冷え切っていようと、あの月の人や星や並木たちは、さらに果てしない彼方を抱いて、胸をそびやかせて立っているではないか……。
少年は、自分の月を見つけてしまった。
街の時計がディンドン鳴った。

posted by アスリア at 14:31| Comment(0) | 創作エッセイファンタジー