2018年12月31日

月と少年と星の人


『冬と春の合間』からジングルベルが漏れ聞こえる。少年は、シャガールの絵そっくりの月が窓から昇り始めるのに気づいた。
月はこうこうと照りわたり、キラリとしずくをたらしている。真夜中ちかく、人狼は街の一郭でトナカイとソリが空を飛ぶのを見ている。あれはいま、この街の人々に向かって、ギフトを運んできているのだ。ぼくには関係ないのかな。
年を取った星の人が、赤い帽子をかぶってやってきて、ひらりと月から舞い降りた。仰天して見ているうちに、月に一礼して、帽子から氷の玉を取り出す。トナカイとソリが、ふうわりと地上に降り立った。少年は街の一郭で、少し首を傾ける。氷玉はそのまま、光の球になって並木通りの街灯をひとつひとつ点した。そうだ、もう少しで、もう少しで少年にもあの正体がわかるかもしれない。……ついていくと、木々の寒々とした枝が舗道に影をおとしていて、少年は悲しくなった。
トナカイとソリの国へ訊ねて行くとしたら、かれらからどんな風に迎えられるのだろうか。そのときも、少年は明るく笑い声をあげるだろうか。それとも、ひねくれた幼児のような目つきで、あたりをじっと見まわそうとするだろうか。だが、ダメだ。そんなことしたって、クリスマスギフトはもらえないに決まってる。
月から出た星の人がほっほっほーと笑い声をあげた。背中に大きなふくろをしょっている。
「ほー、きみはあの子かね」
「あ、あなたは……」
街の一郭で、なにかに魅せられたように、少年は星の人を見つめている。今よりのち、思い出は彼から去ることはあるまい。星の人が少年をさらって行く瞬間まで、彼は自分に素直に生きていたいと思った。
耳を澄ましてみると、クリスマスカロルがきこえてきた。少年が元の場所へ戻ってみると、お月さまは空高く登っていた。
すでに少年の存在はこなごなに砕かれて、果て知らぬ彼方へ押し流されていくのだろう。
北風が雪を降らし始めている。
少年の上にさりげなく覆いかぶさってくる夜空の星々や、並木の枯れた姿が、だんだん近づいてくるような気がする。どんなに少年がいま、悲しい思いをしていようと、どんなに少年のこころの真ん中が冷え切っていようと、あの月の人や星や並木たちは、さらに果てしない彼方を抱いて、胸をそびやかせて立っているではないか……。
少年は、自分の月を見つけてしまった。
街の時計がディンドン鳴った。

posted by アスリア at 14:31| Comment(0) | 創作エッセイファンタジー