2017年08月28日

嫌よのドリアード

嫌よのドリアード

俺は、とある公園に来ていた。
昼間にはハトやカラスが一杯来ている、なんの遊具もないさびれた公園だ。
ネットの情報によると、そこに恐怖のお化けがいるという。

俺としては、そんなお化けはどうってことなかった。
広島の現状を訴える写真を見たって、怖くもなかったし、かわいそうだとも思わなかったからだ。

お化けが現実にいるのなら、動画のひとつも作って動画サイトにでも投稿した方が、どれほど面白いことか!

それで、ネタを仕入れるために、この公園に来た、というわけである。
どんな恐ろしい化物が来ようとも、こちら柔道黒帯、剣道も三段である。チンピラだろうとだれであろうと、俺にはかなわないはずだ。お化けなんてばからしいものの正体を見極め、
じっくり観察してやる。


公園は、周囲を錆びた鉄棒で囲まれた、空き地のようなところだった。まんなかに大きな木が立っている。看板にいわく、

「嫌よのドリアード」

なんのこっちゃ。
眉をひそめて、スマホをチェックする。ドリアードとはなにか?

どうやら、木の精であるらしい。日本にドリアード、というのも微妙な気もするが、たぶんゲームかアニメのオタクが、この木にそういう命名をしたのだろう。

俺が近づいていくと、看板の着いた木が、風もないのにゆさゆさと揺らぎ始めた。

この距離で見る限りでは、その木はケヤキで、根はふとく、緑も濃い。夏の真っ最中ということもあって、セミがつくつくぼうしと鳴いている。

そのそばで、めちゃくちゃチビな小男が、暑そうに自分をうちわで扇ぎながら、背もたれのない椅子に座っていた。ランニングシャツ、半ズボン、小ずるそうな小さな目。

「おや、挑戦者がやってきましたね」
そいつは、うれしそうにそう言うと、うちわを地面に置いて、手を差しのばした。
「はい、挑戦料」
「なんだよ、その挑戦料ってのは」

俺が思わず聞き返すと、そいつはクツクツ笑いながら、
「うちのドリアードの恵美から、『愛してます』ってことばを引き出せたら、挑戦料は十倍になってお返しします」
というのである。

正気か、と目を疑っていると、ケヤキの幹のなかに、女の子がひとり立っていた。ちょうど幹に埋め込まれるような形になっている。

「最新型の、遺伝子操作でしてね」
チビ男は、両手をもみしだきながら、
「ある種の磁力を発しており、近づくことはおろか、話しかけることも出来ません」

ほんとうなのだろうか。
俺は、その少女に向き直った。
「恵美さん……」

ピシッとケヤキの枝が飛んで来た。あぶない! もう少しで串刺しだ。俺が身体能力に優れていて、ほんとうによかった。

恵美のほうは、ニコニコ笑っている。害意のかけらもない無邪気な笑みだ。
「もしかして、うわさの化物というのは、コイツのことか?」

水を向けてみると、チビ男はぺろりと言った。
「みなさん、自分に理解できないことは、排除しますからな」

なるほど、それならコイツから愛のことばをもらえば、一躍ネットで有名になれるというわけだ。挑戦料も十倍だというし、やってみるか。


俺は、まずは近づいてみることにした。
ケヤキの木に近づくにつれ、どういうわけか反発力が強くなっていく。
恵美の顔は、意地悪く微笑んでいる。
「ここまでおいで、あっかんべー」
そういって、指先で目の裏側を見せたりしている。
くやしいが、何度やっても近づけないのは事実だった。


「はい、挑戦料イタダキ」
五千円もボラれてしまった。
あとで知ったのだが、あのチビ男は、あちこちの町で同じように挑戦者をつのり、それで生計を立てていたらしい。

その生活も、長くは続かなかった。
チビ男の暮らしていたテントから出火して、恵美の木に引火してしまったのだ。ネットはその話題で持ちきりになった。

挑戦者がぶちキレて嫌がらせをしたのだ、とか、遺伝子操作をした科学者が、証拠隠滅をはかったのだとか、様ざまな憶測が巷を賑わせた。

しかし、俺はそんなことはどうでもよかった。
あの、近づくことの出来なかった恵美から、投げつけられた枝に着いていた木の実が、俺の身体に植え付けられて、俺もドリアードになってしまったのだから。

人間が自ら作り出した文明によって弱体化したあと、人間の歴史を知る生き証人として、俺は進化した犬人間と暇があると昔話に花を咲かせている。

posted by アスリア at 13:15| Comment(0) | 創作
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