2017年11月10日

魔法世界のリフジーズ 02 変化 01

救急カーゴがやってきて、おれは箱に乗せられた。

とたん、稲妻がカーゴのなかを駆け巡った。

ビシビシと、複雑な魔法回路が埋め込まれた壁が反応する。

その回路から稲妻の青白い光が放たれると、ぶしゅー、という音を立て、箱が動かなくなった。

―――わははははは。破壊しろ! 破壊だ! ぶっ壊せ!

こころの声が命じている。おれは、その声が頭のなかいっぱいに広がるのを感じた。

「壊せ! 破壊しろ! ぶっ壊せ!」

無意識に、笑いがこみ上げてきた。どんよりとした雲がコンコースに垂れ込めている。まわりはみんな、ぐにゃぐにゃ歪んで見えた。その歪みがおかしくて、おれは狂ったように笑い転げた。

「やめなさい! あんたビョーキなの?」

いきなりほほをぶん殴られて、おれは我に返った。例の見知らぬ女と、年寄りたち数人、そしてカーゴのなかで転送回路をいじっていた賢士(マギウス)たちが、どん引きになっておれを眺めている。

「何するんだよ! おまえ、だれだよ!」

おれが詰問すると、

「あたしは高野(こうの) 香澄(かすみ)! あんたとおなじボランティアのセマリストよ。もう半年も同じことやってるのに、あの雷鳴のショックのせいで忘れたの?」

「どうでもいい。おれを放せ。これからおれは、正義を貫きに行かねばならん」

おれは、カーゴを降りようとした。

「正義? なにそれ。魔法勇者シリーズの見過ぎ?」

香澄は、あからさまに嘲笑している。

おれは、すっかりおびえている賢士二人組をチラ見して、

「病院には行けない。いまの状態で行ったら、迷惑がかかるだろ」

と言ってみる。賢士たちは、顔を見合わせた。

「原因に、心当たりがありますか」

そのうちの一人が、思い切ったように言った。

香澄が、事情を説明する。おれは、つまらなくなってカーゴを降り、公民館から魔法のほうき置き場へ向かっていく。

ビシビシと、左右にほうきがぶっ飛んでいく。ほうきが公民館の壁にぶつかって折れてしまった。おれは情けなくなってきた。

雷に襲われて記憶の一部を欠損してしまい、身体中は帯電しまくっている。こんなことは、生まれて初めてだった。どうすればいいのかわからない。病院に行けば、間違いなく魔法回路に支障が出るだろう。

「ふん、こんなのたいしたことないさ。セマミラーの餌である語彙ジャーキーの製造所にでも行って、発電の手助けでもしてくるか」

引き返したおれはジョークを飛ばしたが、香澄は眉をひそめている。おれの生徒で年寄りの東野は、テキパキとした身振りで、

「身体中が電気なら、地気を地上に流してしまえばいいのでは?」

とか、

「かなものは近づけない方がいいわね」と賢士二人組に助言したり、

「御札、効かないかしら? わたしのを使ってみる?」

とお守りを差し出したり、大騒ぎであった。

「東野さんったら、すっかり生き生きしちゃって。目が死んでたのが嘘みたい」

「おれの教え方が悪かったのかよ」

「そうじゃないけど、ひとから必要とされるのって、大切なことよ? わたしの生徒なんか、同じことを繰り返しても覚えられないから、すっかりひねちゃったんだから」

東野から押しつけられたお守りには、『家内安全』と書かれていた。

―――こんなものに屈する我ではないわ、ふはははははは。

内部の声が、またもこころのなかで哄笑する。おれはそれを抑えつけた。

なにかがやってくる。

posted by アスリア at 10:25| Comment(0) | 創作エッセイファンタジー
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