2017年11月16日

魔法世界のリフジーズ 02 変化 02

やってきたのは、男だった。大きなプロレスラーみたいな体つきをしていて、秋も深いのに上半身はハダカである。おそらく魔転送部屋を使ってやってきたのだろう。見たこともない、いかにも悪役レスラー風、というか、人食い鬼のようないかつい顔をしている。

「サンダートールの保有者は、だれだ」

いきなり、男が口を開いた。じろりとあたりをみまわし、その保有者を見つけ次第、とってくってやるという態度である。

東野は、たちまち活気づいた。

「沖縄のお菓子かいね? ここは広島の公民館じゃけ、沖縄とは関係ないんじゃ」

「サーターアンダーギーじゃないっ!」

男はつばを飛ばして否定した。

「ここらに、雷が落ちてきただろう。その雷の保有者を探しておるのだ」

東野と香澄は、顔を見合わせた。雷を保有する? そんなことができるのか?

おれは、二人の顔にそう書いてあるのを、はっきり読むことができた。

―――まずい。つかまったら、解剖されるぞ。

こころのなかの何かがつぶやいた。

解剖? それは困る。

おれとそいつの意見が一致した。

おれが男の隙をうかがっていると、男は東野にけんけん叱られていた。

「なに荒唐無稽なことを言っとるんよ! 雷を保有なんて、できんじゃろう? そもそも、あんたはなにものなのよ? まるで影のように現れるなんて、賢士のひとりじゃないわね? さっさと正体をあかしんさい」

男は、恐れ入ったようすもなく、まだちょっと怒っているふうで、

「俺は政府の役人だ。落雷の被害者を保護するのが仕事なんだ」

「保護、というより連行では」

香澄は、冷淡な目で「政府の役人」を名乗る不審人物を見つめている。

「疑うなら、身分証を見たまえ」

差し出したパスポート型の黒い手帳には、「国家安全保障局」と書かれている。名前は、古里(こり) 孝夫。

「警察じゃないんだったら、逮捕権はないだろ。おれは行かない」

おれはくるりと背を向けた。

「いいのかね? この事態は、きみの手に余るだろう。ボランティアで教えていたきみが、リフジーズになってしまったら、やることがなくなってしまうのではないのかね」

古里は、試すように笑っている。

「落雷の衝撃で記憶を失った被害者はおおい。それなのに、どうやってセマミラーをあやつる仕事に就くのかね? セマミラーは、そんなに甘いものじゃないぞ」

信じていいのだろうか?

おれのこころは揺れた。彼が政府の役人であるということを疑う材料は、どこにもない。ただ、「国家安全保障局」というところが、不安なだけだ。マスコミでは、あまりいい噂を流さない。無実の人間を投獄したとか、魔法使いを抑圧したとか。まあ、すべて過去のことではあるのだが。

―――こいつを信じるな! サンダートールになった人間がどうなったのか、報道されていないだろ。

こころのなかの何かがささやいている。

どうするべきか。一緒に行けば、このうるさくてやっかいな「なにか」が、処理されるのだろうか。

あるいは、もっとひどいことになるのだろうか。

「な、俺と一緒に行こう? 行けばよけいな考えはすべて消え失せて、元の自分以上のものになれるんだぜ?」

古里は、誘惑するような言い方をしていた。

元の自分以上のものになる。

それは、魅力的かもしれない。

サンダートールが何者なのかはわからないが、現状、自分は以前より劣っている。

―――いまの自分が、元の自分以上だとは思わないのか? その気になれば、電撃でイチコロだぞ。

「なにか」はささやき続けている。

おれは、まともに古里を見つめた。
古里は、平然と見返した。
おれは周囲をあてもなく見回した。

東野は、心配そうにおれを見つめていた。

彼女は、リフジーズだ。

おれも、雷撃により、リフジーズになってしまった。

雷撃がなくなれば、すべて片付くのだろうか。

―――ほんとうに、古里は信じられるのか。

おれは考えに沈んでいた。

posted by アスリア at 07:51| Comment(0) | 創作エッセイファンタジー
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