2018年05月09日

くしゃみドラゴンの恋

くしゃみドラゴンの恋

はーくしょん!
ちーん!
ドラゴンのはじめくんは、小さなハンカチを取り出して、でかい洟をすすりました。
ハンカチは、もうぐちょぐちょです。
「うーん、からだはだるくないからなぁ。なんの病気だろう?」
はじめくんは、健康が自慢のドラゴンです。長いあいだ、洟がつづくのは、風邪のまえぶれかもしれません。どんな動物でも風邪は万病のもと。心配になったドラゴンは、下界に降りて大魔法使いに診てもらうことにしました。もちろん、人間に変身したのです。

下界は、ちょっと見ない間に、ものすごく変化していました。
少ない人通りの砂利道だった道路は、石造りになっています。
呼び込みの声もします。
その通りを抜けていくと、「小林診療所」と書かれたこぎれいな小屋が建っていました。
「ごめーんくださーい」
呼びかけると、がちゃりとドアが開いて、白衣のお姉さんが顔をのぞかせました。
とてもきれいなお姉さんです。光り輝くような髪の毛をしていて、白い肌に黒い瞳が宝石のよう。はじめくんは、一目で恋に落ちてしまいました。
「あー……」
すっかりアガって絶句したとたん、
「はーくしょん!」
もろにつばを、お姉さんにかぶせてしまいました。
お姉さんは、ちっとも嫌な顔をせず、
「お風邪ですね。どうぞこちらへ」
案内してくれました。
待合室では、太ったおばさんや犬をつれた子どもなどが並んでいます。みんなにお姉さんのことを聞くと、
「なんてきよらかな人でしょう」
とベタほめなのでした。ますますはじめくんは、ぽーっとなってしまいました。
順番が来ると、大魔法使いが、はじめくんを調べました。
「花粉症ですね」
「かふんしょう?」はじめくんは、きょとん。
「あなたの場合は、スギ花粉が鼻にいたずらをしているのです」
というと先生は、薬を処方してくれるのです。
「あの……、白衣のお姉さんは、誰ですか?」
思い切って訊ねると、
「ああ、うちの有能な看護師ですよ」
というお答え。
「ら、ら、ラブレターとか出したら、迷惑かな」
もじもじしながら訊ねると、大魔法使いはわっはっはと笑って背中をぽーんと叩きました。
「キミともあろう人が、天使に恋をするなんてね!」
「え、それはどういう……」
「キミがドラゴンだって事は、もうわかっているんだよ。看護師は天使、つまりエンジェルなんだ。かなわぬ恋ってやつ」
がっかりしながら薬をもらうと、看護師のお姉さんはそっとかれの手に触れて、
「きっといい方が現れます」
と言ってくれました。

その後はじめくんは、大魔法使いさんに通っている中に、同じドラゴンが混じっていることに、気づきました。
「おや? きみも、花粉症?」
「ええ、あなたもなのね?」
ふたりはすっかり仲良しになりました。
「イノシシを獲ってきてあげるよ」
「うれしいわ、あなたってやさしいのね。じゃあ、わたしはウサギをつかまえてあげる」
こうして、プレゼントをしあううちに、いまではいっしょに住んでいます。
「あなた、あーん」
よく肥えたイノシシを、口から噴き出す炎で丸ごと焼いて、差し出してくれる彼女。
「ああ、しあわせだなあ」
はじめくんは、ほのぼのと心が温まりました。
二人の花粉症はどうしたかって?
「はーくしょん!」
早く治しましょう。ハンカチが、もうめちゃくちゃですよ。

posted by アスリア at 14:56| Comment(0) | 創作
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