2016年10月22日

タヌキと和尚さん

タヌキと和尚さん

  変身できる木の葉のチケットを、おじいちゃんからもらったタヌキの子どもは、ちょっと冒険するために村へ降りていきました。
村に降りる途中の道に、山寺があります。その寺に和尚さんが住んでいるのです。いたずら好きなタヌキは、まずは手始めに、この和尚さんを、だましてやろうと思ったのです。
そこで学校で教わったとおりに頭に木の葉を載せて、けっこうかわいい少年に化けました。彼が寺に近づいていくと、和尚さんは、ちょうど庭の栗の木のそばで、栗をとっているところでした。

「和尚さん、和尚さん」
タヌキの少年は、和尚さんに呼びかけました。和尚さんは振り返って、びっくりしたように目を丸めました。頭に木の葉を載せた少年が、こっちに向かって歩いてきたからです。
これは、タヌキが化けて出てきたんだな、と思うとおかしくて、和尚さんは笑いをこらえていましたが、必死でまじめな顔になり、
「何の用だね」
と訊ねました。

「和尚さん、その栗をひとつください。くださらなかったら、ひどい目に遭いますよ」
少年は、かわいらしい声で言いました。
和尚さんは、肩をすくめて返しました。
「ダメダメ、これは栗きんとんに使うんだから」
少年は、ビックリして飛び上がります。
「栗きんとん!」
「もうすぐ完成なんだ。ちょっとなら分けてもいいよ」
と、和尚さん。
少年は、いたずらをしようと思っていたことも忘れて、思わずうなずいてしまいました。

「わたしはちょっと、村の用事で出かけてくるからね」
和尚さんは、一通り栗きんとんを作った後に、そう言いました。
「はいはい、喜んで」
少年は、ウキウキして言いました。
台所に、甘ーい匂いが立ちこめてきます。
さっきとったばかりの栗が入っていて、ものすごくおいしそうです。お腹がぐーっと鳴りました。
「ちょっとなら、わかんないよね」
少年は、きんとんを指でなめてみました。
「甘ーい! おいしー!」
さあ、それから少年は、もう夢中です。和尚さんのいないのをいいことに、栗きんとんをぜんぶ平らげてしまいました。

和尚さんが台所に帰ってみると、ちょうど少年が食べ終わって、顔中きんとんで金色になっているところでした。
和尚さんは、じっと少年を見つめています。
タヌキの少年は、自分が恥ずかしくてなりませんでした。ここにある栗きんとんを、全部たべてしまったのですから、いいわけのしようもありません。
そこで、タヌキは和尚さんの前に正座して言いました。
「栗きんとんを、食べてしまってごめんなさい。あんまりおいしかったから、止めようがなかったんです」
すると和尚さんは、にっこり笑ってこう言いました。
「お腹が減ってたんだろう。一緒におにぎりを作って食べよう」
「え……? 怒ってないの?」
「怒るもんか。正直に言ってくれて、うれしいよ。わたしも一人で、さびしかったしね」
「ありがとう!」
  タヌキの少年は、ぴょんっと立ち上がりました。
「お礼に、僕の宝物の、キレイな石をあげましょう」
「どんな宝物も、きみという友だちにはかえがたいよ」
和尚さんは、そう言ってほほえみました。
二人は、作ったおにぎりを、分け合って食べました。
家に帰ったら、おじいちゃんに、木の葉は魔法のチケットだったよって言おう。
タヌキは、そう思いました。

posted by アスリア at 18:16| Comment(0) | 創作

2016年12月25日

竜神(リライト)

  竜神

紅羽(あかはね)藩のお殿さまは、池で三匹の大きな鯉を飼っていました。
  紅、金、白色のその鯉は、たいそうりっぱなものでしたので、その藩の人々は、お殿さまがどんなに苦労して飼っておられるのだろう、と噂し合いました。
  お殿さまは、鯉にそれぞれ「牡丹」「菊」「百合」という、花の名前をつけて、それは大切に育てているのです。
  ことに「菊」は、お殿さまのお気に入りで、特別な餌をあげたり、芸を仕込もうとしたりするのでした。
  菊は、お殿さまが池に近づくと、お殿さまのそばに近寄ります。
  そして、お殿さまが笛を吹くと、それに合わせて池の中で舞うのでした。
 
  ところが、その噂を聞きつけた将軍さまが、その菊を食したいと言い出しました。逆らったら、切腹ものです。藩もお取りつぶしになると言います。
しかしお殿さまには、これまで我が子のように育ててきた菊を差し出すような真似は、とてもできそうにありませんでした。
「なあ、菊や」
池のほとりで、お殿さまは、ほとほと弱り切って言いました。
「おまえを将軍さまに献上したら、そのあとわしはどうして生きて行けよう。自分の思うとおりに生きられないのだとしたら、人間というものは、なんのために生きておるのじゃろうな」
ぱしゃん。
池の中で、菊がはぜました。
お殿さまは、笛を取り出して、しめやかに吹き鳴らしました。
ひゅるり、りりら。
笛が鳴ると、菊はうれしそうに池の中でぐるぐるまわります。
鯉の牡丹も、百合も、一緒に踊り始めました。
それは、どんな宴の踊り子よりも、優雅な舞いでした。
ひゅるり、ころころ。
笛は、興に乗って、盛り上がります。いつの間にか、おつきの者たちも、一緒になって楽の音を楽しんでいるのです。家来の中で一番優秀な者が、小さな鼓を持ってきて、池のそばにたたずむと、
よおっ。たん、たたん。
と、笛の音に呼応するのでした。
ひゅーるる、ころり。
笛の音は、艶然としてその鼓を包み込むようです。
すると、どうでしょう。
そこへ、将軍さまのおなーりーという前触れとともに、将軍さまが現れました。
「頭が高い」
お殿さまは、慌てて笛を投げ捨て、ぬかずきました。
「よいよい。せっかく興に乗っておるのだ。捨て置け」
扇子であおぎながら、将軍さまは、偉そうにそう言って、じろりと池の中をのぞき込みました。
ばしゃん。
魚が水面をはじいて、将軍さまは、水浸しになりました。
笑いをこらえる周囲を不機嫌に見回して、将軍さまは扇子をたたみ、池のほうに向けました。
「早う鯉を献上せよ」
理不尽な将軍さまのことばに、お殿さまは、身を引き裂かれるような思いでした。菊のような頭の良い鯉は、もう二度と手に入らないでしょう。だからといって、将軍さまを怒らせたら、命はない。きっと菊もろとも、将軍さまに殺されてしまう。
どうしたらよいのだ!
必死になって、考えているうちに、空模様があやしくなってきました。
「おや?」
周囲が、がやがやと見上げます。
あれほど晴れていた空は、黒い雲が一面に広がっています。
ぽつり。ぽつり。
雨が、一つ、二つ、降りしました。。
「将軍さま! わが屋敷へ!」
お殿さまは、将軍さまに呼びかけました。
すると同時に、池の中がぼこぼこっと泡立ち始めたのです。
びっくりしていると、その泡だった水の中を三匹の鯉たちが、ぐるぐる回っているのでした。
それが、まるで矢のような速さで、見ている内に鯉の色が、紅、金、白とまじりあい、溶け合い、夢のように一つになるのです。
「これは……!」
絶句する将軍さまの目の前で、池がガバと逆まきはじめます。
台風か、竜巻かと目をこすっていると、その水がすーと引きました。
するとびっくり!
池の中で大きな蛇のようなものが、こちらをにらんでいるのです 。
肌の色は青く、鱗の一つ一つは虹のように光っています。口元におおきなひげが生えていて、足は四本生えていました。その長い首には、五色の玉が光っていました。
「わあっ」
がたがたがた。
がたがたがた。
勇猛で知られた将軍さまも、この化物の前には腰を抜かし、泡を吹いてしまわれました。
「竜神だ。さては鯉どもが竜になったな!」
お殿さまが手を拍(う)って叫ぶと同時に、竜は上空に首をもたげ、たちまち天へと昇っていきました。
お殿さまが竜を飼っていた、という噂は、たちまち紅羽藩に知れ渡りました。
将軍さまは、自分が泡を吹いて倒れてしまったことをお殿さまに口止めし、その代わりにと言って、禄高を増やしてくださいました。
今はお殿さまは、鯉ではなく、笛を楽しんでいます。
「合奏するのもまた、楽しいものじゃて」
そんなことを言って、しょっちゅう宴を催してはすばらしい笛を披露するので、家来たちはげんなりして、
「竜神様が見込まれた方だけど、あの宴好きはなんとかならないだろうか」
と言って、みんなで顔を見合わせてはため息をついたそうです。

posted by アスリア at 14:43| Comment(0) | 創作

2017年03月13日

月のアライグマ

海辺に住んでいるアライグマは、いつも動物たちや魚たちの洗い物をするのが、いやでいやでしかたありませんでした。


あるとき、アライグマは神さまにお願いしました。
「どうかわたしを、近くの農家に勤めさせてください。そこでわたしは、食事をつくりたいのです」
神さまは、農家を紹介してくれました。アライグマは、バッタやカエル、ヘビなどを料理してお百姓さんに出しましたが、お百姓さんは、気味悪がって、食べようとしませんでした。


アライグマは、がっかりしました。
「こんなおいしいものはないのに」
カエルだって、料理次第ではおいしくなるんです。でも、人間とアライグマでは、やはり好みが違うのです。

 

あるとき、白浜でカニを追いかけていたアライグマは、ふと海を見てこう思いました。
「海はいいなあ、なんの文句も言わない。わたしは、海になりたい」

 


するとどうでしょう。アライグマは、海になっていました。
海になったアライグマは、さまざまな魚たちを懐に抱きしめ、一生懸命、岸辺に波を打ち寄せました。


ざばーん、ざばーん。
太陽が出てきて、じりじりと海を照らします。魚たちは、とても活発です。昼にエサをとる魚。夜に狩りをする魚。プランクトンを食べる魚。
毎日、毎日、波を岸辺に打ち上げているうちに、だんだんアライグマは、飽きてくるのでした。

 


東の空から、太陽が昇ってきます。今日がまた、はじまるのです。
考えてみると、太陽ほど動物や魚たちを暖かく見守ってくれるところはない、とアライグマは思いました。
「太陽はいいなあ。みんなが感謝している。海だったら、これだけ一生懸命つくしても、当り前って顔する魚もいる」

 


と、アライグマは思いました。
するとどうでしょう。アライグマは、太陽になっていました。これでもう、だれにも文句は言わせません。
「神さま、ありがとう」
アライグマはそういうと、がんばってみんなを照らし始めました。
春の日は、ぽかぽかと照りわたります。
きらきらと、海の波がきらめきます。
ぴんぴん、魚がとびはねます。
太陽になってよかった。
アライグマは、胸がいっぱいになりました。

 

 

ところが、季節が変わると、いつまでもぽかぽかと照らすわけにはいかないのでした。動物たちからは、「もっと照らしてほしい」「いや、暑いのはいやだ」と注文をつけられます。魚たちは、「卵を産むから、夜を長くして」という注文も来ました。アライグマは、つらくなってきました。

 


しずしずと、月が海から昇ってきます。その表面には、くっきりと湖が見えています。
「ああ、久々に洗い物がしたい。勝手かもしれないけど月の湖に行って、思いっきり洗濯物をしたい」
アライグマは思いました。
するとどうでしょう。アライグマは、月の上にいました。


月の湖に、数え切れないほどの洗濯物が置かれています。


それは、魚の着物や、獣の洋服などでした。


魚たちと獣たちが、月の湖岸に立っておじぎしました。
「いままで、わがままいってごめんなさい。どうか、わたしたちの洗濯物を、洗ってください」
「いいですとも!」
アライグマは、張り切って腕まくりしました。

 

 

いまでもアライグマは、月の湖で、動物たちの洗い物をしているそうですよ。

posted by アスリア at 11:46| Comment(0) | 創作