2017年09月28日

なぞの円盤UFO

なぞの円盤UFO

それが日本の上空にあらわれたときには、みなは「トリックだ」「いや、ほんとうに違いない」「まさか、そんなはずはない」「物理法則に反している」と、侃々諤々の議論を巻き起こしていた。
アダムスキー型宇宙船。
典型的なUFOである。その金属製のまるっこいフォルムといい、音もなく自由自在に上下するその軌道といい、現代科学では説明がつかない。
さっそく、国連代表が選ばれて日本にやってきた。宇宙人が来たのなら、彼らと交流するのはおれたちだ、と言わんばかりに、アメリカやロシアと中国の友好使節が我が物顔に東京を闊歩するのである。
首相である赤部(あかべ) 慶吾(けいご)は、当然のようにおもてなしを要求する友好使節に、苦い顔を必死で隠しながら、贅をつくした和食でお迎えした。お寿司、おせち、しゃぶしゃぶ……。
アメリカとロシアと中国の友好使節は、同じ旅館でお互いを牽制するように食事を囲んでいる。
にらみつけながら食べているが、この和食をちゃんと味わってもらっているのだろうか。
なんであれ、敵対していた三大国家が、いまでは共通の脅威に立ち向かうために日本へ平和的にやってきたのは、評価すべきことであろう。
赤部は、ため息を押し隠しながら、いったん家に帰った。
ひとまず今日は、様子見だ。とうぶん、赤部の出る幕はないかもしれない。

家に戻ると、高校生の娘が、なにか言いたそうにこちらを眺めている。部屋の中に、いつものポチの姿がある。ちなみにポチはビーグル犬である。
「どうした」
「―――パパ。部屋に来てよ」
娘の部屋に? ちょっとドキドキしてしまう。
「どうしたんだ」
「変な生きものがいるのよ」
「なんだって」
一気に、緊張が走った。宇宙人は、手続きというものを無視して、直接このおれに交渉しようっていうのか? 諸外国がどんな反応を見せるやら……。
用心深く娘の部屋に行くと、なぜか、エビがいた。
いや、正確には、目玉が飛び出したエビの握り寿司のような、みょうな生きものが、娘のベッドにちょこんと載っている。そばに、アダムスキー型宇宙船である小さな円盤が転がっていた。
娘がベッドに乗って正座すると、寿司エビはご機嫌な様子で言った。
「はじめまして。おれたちは、エビ星人」
「―――はあ」
エビが口をきいた。いいのか。宇宙人だから、いいのか。
「おたくら、寿司ネタにエビを使うんだってな。さっきアメリカとロシアの連中が、うまそうに寿司を食っているのを見たぞ」
赤部はあわてた。上手く立ち回らないと、気にくわないから日本を滅ぼすなんて言われたら困る。
「えーと、あれはおもてなしの一種なんです」
「おれたちも、おもてなしされたい」
エビは、はっきり言い切った。「おたくの犬を寿司ネタにしてほしい」
「なに」
娘の百合は、さっと顔色を変えた。「あたしのポチを、食べたいって言うの?」
「うまそうだ」
エビは、冷淡に言った。
「いやよ! でていって!」
百合は、両手を振り回してキリキリ叫んだ。
「ポチ一匹で人類が滅亡しなくて済むんだから、安いもんだろ」
エビは、さらに冷淡な言い方であった。
「信じられない。一匹で済むという保証はないんでしょ」
百合は、言い返した。
「宇宙人うそつかない」
エビは、ぴょんぴょん跳ねている。
そこへ、ポチがとことこ現れて、くん? と鳴いた。
赤部は悩んだ。
彼にしてみれば、犬の一匹ぐらいどうってことないのだが、百合にしてみれば大問題なのだ。かわいい娘を傷つけたくない。
その顔を見てキッと唇を噛みしめた百合は、ポチを片腕に抱き上げ、ベッドに転がっていた円盤を拾い上げて、脱兎のごとく駆けだした。
「百合! どこへ行くんだ!」
狼狽えつつも赤部は、あとを追う。もちろんエビ星人も背後から追いかけてくる。
百合は、近くの土手に駆けのぼると、拾い上げた円盤を、
「U・F・O!」
と、円盤投げのように投げ飛ばした。土手はさわやかな風が吹いている。百合はポチを解き放つ。円盤をポチが追いかける。うわーっと叫んでいるエビ星人。円盤はフリスビーのように犬の口に入り、粉々に砕けて果てた。
「……家に帰れなくなってしまった……」
エビ星人は、ぼうっとしてつぶやいた。

なんの力もなくなったエビ星人は、友好使節の腹の中に、ごちそうとして迎えられた。
しかし、日本は、「貴重な科学的資料をこわした」と責められて、罰金をいっぱい取られてしまった。
それでも、赤部はご機嫌であった。
その後、ポチがお宝をどんどん発見してくれるようになったからである。
「ここ掘れわんわん」
人語までしゃべるようになったポチを眺めながら、こんどは宇宙人が飼い猫のノラに、なにか能力を授けてくれないかなと思う、赤部であった。

posted by アスリア at 08:48| Comment(0) | エッセイ

恐喝権

恐喝権

あたしは誘惑を感じていた。
「ねえ、奥さん。ビットコインは、ぜったい儲かりますから」
営業マンが、ことばを重ねる。
ビットコイン。仮想通貨のことだ。あたしには、難しいことはわからないけれど、取引は株のように価値が上がり下がりして、それで儲けることができると営業マンは言うのである。
彼の目から顔を逸らして、その手につり下げてある革の鞄に目を落とした。
高価そうな鞄だ。ブランドものっぽいロゴも入っている。ジッパーが少し開いていて、中から封筒がのぞいていた。
だめよ。結婚してから、ぜったいやらないって決めたんだから。
自分に言い聞かせている間にも、営業マンは、一生懸命、玄関でことばを重ねている。
「仮想コインで買い物を出来る店も増えてきました。流行の服や靴だって、ビットコインで買えるんです。スマホ一台でぜんぶ出来るんです」
便利そうだ。値上がりが続いているというし、へそくりを出してもかまわないかもしれない。
あたしは、家の金庫から三百万ほど取り出し、
「それなら、ものは試しでやってみるわ」
と応じた。
あたしは、営業マンが、ふところにその三百万を入れるのを眺めているうちに、どうしても堪えきれなくなってきた。気づかれないように一枚千円札を落とし、拾う振りをして営業マンの鞄からその白い封筒をくすねてしまったのである。

営業マンが立ち去るのを眺めながら、あたしは深い後悔に打ちのめされていた。
あれだけ、自分を律してきたのに。ふつうに歩いているときだって、手にギプスまではめて列車に乗り降りしていたあたし。この犯罪が見つかったら、いまの生活はパーになる。夫と約束したことが破られたと知られたら、別れを切り出されるかもしれない。
でも、営業マンだって悪いのよ。あんな風に、盗んでくださいって言わんばかりに封筒をのぞかせてるんだもの。あたしが悪いんじゃないわ。誘惑する方が悪いのよ。

しばらくあたしは、ビットコインのことよりも、白い封筒のことのほうが心配だった。営業マンがこのことを知ったら、あたしの弱みを握ることになる。いまはビットコインを口実にして近づいてきているけれど、そのうちもっと大きな買い物をするように、恐喝してくるんじゃないかしら。
営業マンからの連絡は来ない。三百万円はどうなってしまったのだろう。いや、封筒をとられて、なんともなかったのだろうか。たいした手紙が入っていなかったのだろうか。
営業マンの会社に連絡したのだが、「だれですか?」という返答だった。
だまされたのだ。
ビットコインなんて、はじめから買うつもりはなかったのだ。
三百万をトンズラされてしまった。
手がかりは、あの封筒だけ。
あたしは、好奇心がうずいてくるのを感じた。
ちょっとだけ、最初の一行を見るだけよ。
そう思って、封筒の封を開けてしまった。
私立探偵事務所の文字だ。
手紙に記されていた連絡先に電話すると、例の営業マンの声。
「あ、あなたは……」
「このあいだは、よくも三百万もだましてくれたわね。でも、こっちにはあなたの弱みを握っているのよ」
「なんのことかな? 三百万なんてもらった覚えはない」
「いいのかしら? こちらは証拠を持ってるのよ? ご家族に知られたら、あなたも困った立場に立たされるわよ?」
「―――どういうことだ」
あたしは、事情を説明した。

こうして、あたしは三百万と引き換えに、手紙を渡した。
「ちくしょう、なんでこれをあんたが持ってるんだ」
ブツクサ言いつつ、営業マンは立ち去っていく。
「もう浮気はしないことよ!」
その背後に、あたしは呼びかけた。
もう、あの恐妻家には、あたしをだますことはできないだろう。あたしほどの腕前のスリにかかれば、浮気調査の結果報告を掏るぐらい、わけのないことなのだ。

posted by アスリア at 08:36| Comment(0) | エッセイ

パイナップルの真実

パイナップルの真実

「誰がなんと言おうと、この土地は誰にも売らん」
じっちゃは、いかついあごをつきだした。
ところは南の島のある村である。戦争中には激戦地だったこのあたりだが、いまはすっかり平和になって、あちこちでパパイヤやマンゴー、パイナップルなどを栽培している農家も多い。 日本から、この南国のフルーツを作りたいので、土地を売ってくれと言う打診が、おれのところへ来たのは、つい先日のことだ。じっちゃの相続人はおれだけだから、いずれはその土地もおれのものになるのだ。少し早く譲ってもらったって、構わないだろう。
と、じっちゃを説得したのだが、
「ここは誰にも売らん」
の一点張りであった。
そこで、おれも一計を案じた。
じっちゃの好きなものを食べさせて和んだ隙にこの件を提案してみるのだ。
おれは、じっちゃの好きそうなものがなにかを考えてみた。

第二次大戦中には、食べられなかったという、日本の寿司などはどうだろう?
世界的にも有名だし、この村の連中の評判もなかなかいい。
じっちゃは贅沢することを知らないから、寿司ぐらいならおごってやってもいいだろう。
今後の儲けを考えれば、そんなことぐらいどうってことない。

おれがじっちゃに、「どうだろう、町の寿司屋に寿司を食いに行かないか」
と、誘ってみると、じっちゃは顔をしかめて言った。
「寿司だぁ? 日本人の作ったものだろう? ロクなもんじゃねー」
偏見である。日本人だって、立派にいろんな商品を作っている。トラクターでどれだけのひとが、辛い畑仕事から解放されたことか。
ジープで、どれだけのひとが、歩きにくいジャングルのでこぼこ道をすいすい歩けるようになったことか。
おれは、言葉を尽くしてその事実を訴えた。
じっちゃは、ぷんと横を向いてしまった。
「日本人は、ロクなものを作りゃしない。そのジープだって、中東では武器として使われているって話だろ。口で平和を唱える死の商人なんかに、先祖代々の土地は売れないね」
取り付く島もないのである。
おれは、ほとほと弱ってしまった。
日本の商社マンに、その話をすると、
「まあ、そういうこともありますよ。おじいさんには、あとで説明するとして、いまはその土地を見せていただきたい」
と、押しが強いのである。
「しかし、あれほど売り渋っている土地を,勝手に見せるわけには」
おれがためらっていると、
「いいんですか? あなたのお仲間は、すでにパパイヤやパイナップルで成功を収めているんですよ。この波に乗らなければ、あなたは一生貧しい農民のままですよ?」
商社マンは、メガネをきらめかせてそう言った。
おれは、じっちゃのパイナップル農園を眺めた。
この農園を日本に売り渡せば、一攫千金、大金持ちである。欲しかった冷蔵庫、クーラー、テレビ、車、なんでも買える。なにより、じっちゃの労働が減るのが嬉しい。じっちゃももう、トシだ。そろそろ引退して、楽隠居させてやりたい。
おれはたったひとりの孫として、じっちゃの財産を、じっちゃのために使う義務がある。
そんなタテマエとは別に、本音もあった。
カネがいっぱいあれば、女はより取り見取り。札束をちらつかせてセレブの仲間入りを果たし、映画スターと肩を並べる。パイナップル農園を売れば、それだけのカネが手に入るのだ。じっちゃの土地は、それほど肥沃で広大だった。
なぜ、じっちゃは、それがわからないんだろう。
もちろん、土地に愛着があるのはわかる。ここを出ていくことになったら、長年の友だちとも縁が切れる。しかし、なにかを手に入れるためには、なにかを犠牲にしなければならないのだ。じっちゃも、カネをたくさんゲットできれば、考え方が変わるだろう。

おれと商社マンは、パイナップル農園の奥へと進んでいった。
「この辺から、ジャングルになってますが、開拓すれば大丈夫です」
おれは、奥へと案内しながら言った。商社マンは、おっかなびっくり、腰をかがめてついてきている。日焼けした肌に、虫がまとわりついている。
「この辺は、日本軍と地元住民が戦った激戦地でしてね。じっちゃは、その戦争に参加したらしいんです。あまり多くは語りませんが」
おれは、案内をしながら説明する。商社マンはうなずきながら、ジャングルへと入っていく。
「この辺は、じっちゃは手つかずのまま放置しているんですよ。農園を譲ることになったら、整備の方、よろしくお願いします」
おれはていねいにそう言うと、頭を下げた。
商社マンは、ふと、足を止めて手に何か拾い上げた。
「これは?」
見ると、小さな灰色の物体で、上の方に導火線が引いてある。
「あ、あぶない! それは、パイナップルです!」
「なーんだ、人の悪い。新しい種類の果実を開発していたんですね」
「そうじゃない。第二次大戦に使われていた、日本軍の手榴弾です!」
あわてて商社マンがそれを放り投げると、どかん! と爆発音がして地面が飛び散った。
「こんなのが、ゴロゴロしてるんですか」
商社マンは、少し青ざめている。
「―――じっちゃが、売りたがらないわけが、やっとわかった……」
  商談は、破談に終わった。

posted by アスリア at 08:27| Comment(0) | エッセイ